第四章

□Vol.11 泰衡の苦悩
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『私は平重衡であることを諦めます』



そう言ってお前は私の付き人となった。


公の場には出せない、隠された存在。
お前は私の役に立つ。
必ずその時が来る。


ただそれだけを信じて。








箱入りむすめのススメ
 Vol.11 泰衡の苦悩






「泰衡さまぁ!!」


朝一番に、大きな声で私を呼ぶ声。



「・・・・・」


護衛見習いの者達であろう。
毎朝こうして、屋敷の誰よりも早く目を覚まして鍛錬をしている。
そう命じたのは私。

彼らの朝は、朝飯の支度をする女房達よりも早い。




「将文か」


「はいっおはようございます泰衡さま!」



嬉々として傍に駆け寄る見習いの一人は、将文という男。
齢はまだ15、16だが、この歳でもう両親を失くしている。
・・・・・・平家の戦に巻き込まれて。




「・・相変わらずお前が一番早いのだな、将文」


「はい、泰衡さまの護衛は俺の全てですから!
毎日楽しくて楽しくて」



ヘヘ・・と鼻をかきながら、
照れくさそうにはにかんだ。



「そうか」


「はい!だから俺、泰衡さまの全てを知りたいんですっ!」



瞳を輝かせて私に迫る将文・・・

だが・・・・



「将文よ・・・」


「はいっ!」


「私にそういう趣味はない・・・・」


「!!!???」



若干引き気味の私を余所に、あわてふためきながら


「あ!?い、いえっ!け、決してそういう意味ではなく!ああああぁぁ??!」


困惑している将文。



「・・・・・」


「泰衡さま、違うんですぅ!!」


「・・・・・」


「ほ、本当ですよ?!俺男色なんて趣味は・・・・・あ、っ!」



焦った奴は、段差に躓き体勢を崩す。



「お、わ、と、とっ!」


奇妙な声をあげながら、
体勢を整えようとしてある部屋の前までたどり着く。



「!」



その瞬間、私は立ち上がった。





「あ、この部屋は・・・・?」



ようやく立ち止った奴が部屋の存在に気付いたその瞬間。



「将文!!」


ダン!
強く床を踏みつけて立ち上がり、威圧した。



「その部屋に近付いてはならぬ」



声を張り上げて奴の目を睨む。
ビクリと肩を震わせて、将文は一瞬委縮し
怯えた瞳で私を見た。




「その部屋には、我が一族の命より大事なものがしまってある。
以後近付いたらお前の首を斬るぞ」



語尾を強調して更に畳みかける。





「は、はい・・・・お、俺・・・す、すみませんでした・・・っ」




慌てて奴は私に一礼し、
パタパタと足早にその場を去っていった。




「・・・・・・・・・」


その姿を後ろ気配で見送りながら、
私は部屋の扉に手をかける。




「・・・・・一族の宝物など、嘘もいいところだな」




独り言を呟き、その扉を押し開けた。
キキィ・・・と古びた音が鳴り響く。



扉の向こうには、隠し部屋。


その隠し部屋の更に向こうには、

私と爺しか知らない部屋がある。





元々本家屋敷より、離れに作った私の屋敷の
それまた離れに存在する【完全な隔離空間】




そこに待つ者はただ一人・・・・










「おかえりなさいませ、泰衡さま」
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