リクエスト話

□大人になるって。
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「もう好きでは無いとは…どういう事ですか?」


木枯らしが冷たく吹き荒ぶ。
悲しい季節。


そんな時、
私は弁慶に別れを告げた。


「好きじゃないって、そのままの意味よ」



大人になるって。



別れを告げるや否や、
早々にその場から立ち去る。

だってこの場に居たら、
きっと彼は引き止める。
行かないで、と手を引くと思ったから。
だから、背を向けてからは
逃げるようにして早足で歩いてたけど、
次第に歩幅は広くなり
いつしか私は駆け出していた。


―私達、お互いに近すぎたのよ。




『貴女が噂のまるこさんですか?』

『え、えぇ。貴方は?』


私はその昔、
熊野で子供達に武術を教えていた。

そんな時、現れたのが彼だった。


『ああ、自己紹介が遅れてしまいましたね。僕は弁慶…武蔵坊弁慶と言います』

『私はまること申します』

『ふふっ…噂通り、御綺麗な方です』



自分と歳の差もあまり無く、
その上美形で女性に優しい…ときたら。普通に、彼を好きにならざるを得なかった。

それからどちらともなく惹かれ合って…。愛し合うまでにはそう時間は掛からなかった。



「私達、お互いに近すぎたのよ…」



張り詰めるような冷たい空気の中で
もう一度ポツリ、
静かに言葉を漏らした。
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