第四章

□番外編 親愛なる兄・将臣殿
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親愛なる兄・将臣殿へ



箱入りむすめのススメ
番外編 親愛なる兄・将臣殿
 by将文





筆を持った俺は
木簡に文字を滑らせる。


せっかく我らが泰衡さまが
俺たちに読み書きを教えて下さったのだ。
これを生かさずして、何としよう。

文字を走らせる度にワクワクする。
大好きなあなたに。
兄として、一人の人間として慕うあなたに思いを馳せれば
何行もの言葉が思い浮かぶから。




親愛なる兄・将臣殿へ


お元気ですか?
俺はあれから少し、旅をしました。

早くあなたに追いつけるように。
早く将臣殿に恩返しがしたくて。
頑張ってきました。

そして最近は、
とある館で、護衛見習いとして
雇ってもらう事が出来たんです。

凄いでしょう?
でも、全然。
将臣殿に比べたら、俺なんかまだまだで。
槍使いだって、へっぴり腰で
同期のヤツらに、笑われるばっかりです。

あ、そうそう。
聞いてください、将臣殿。
同期に偉く傲慢な女子がいるんですよ。
すごく気が強くて、
かといって、時々見せる一面はとんでもなく甘えん坊で。
本当に負えない奴なんです。
この前、本気で叱ってやろうと思ったんですけど
彼女も、俺と同じ境遇にあるから。
大切な人を戦で失っているって聞いてから
俺は何も言えなくなってしまいました。

はは、俺ってほんと
男として、だめな奴ですよね…。

『お前は将来、女房に尻に敷かれてそうだな』ってお酒を飲みながら将臣殿が言った言葉、
あながち嘘じゃないかもしれません。


何はともあれ、
俺はいま、とても毎日が楽しいんです。

お守りする大切な主がいて、
大好きな仲間たちがいるんです。
幸せってこということなのかな、将臣殿。


あなたが私を救って下さらなかったら
俺は今頃、絶望の闇の中にいたかもしれない。
あなたには本当に感謝しています。


いつか…

いつか必ず、あなたに恩を返しにいきますので
どうかそれまで
お体を大切に。
あまり無理をなさらないで。
俺にとって将臣殿は、
神よりも仏よりも、尊い存在なんですから。


追伸
先ほど言っていた、同期の女子の事なんですが。
いつか機会があったなら、
是非将臣殿に会わせてみたいです。
彼女、とっても強烈ですから。



それでは、また―…。



将文









「将文〜、また手紙書いてるの〜?もう稽古始まっちゃうよー!」

「ああ、今行くっ」


カタン。
書き終えた筆を置き、
立ち上がって、皆の待っている広間へと向かった。



ねえ将臣殿。

俺はいま、幸せです。




−番外編 おしまい−

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