第一章
□Vol.7
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「……ですから……と思います」
「…………じゃないかな」
誰かが傍で話をしてる…
誰だろう。
まだ頭がぼーっとしててハッキリしないや。
「おや、起こしてしまいましたか?」
箱入りむすめのススメ
〜その瞳には映らない〜
「ん‥ここは?」
「ここは梶原家の屋敷ですよ。と言っても分からないでしょうね」
かじわらけ、って…?
あれ、そういえば私倒れたんだっけ?
「君は先程倒れたのですよ。熱はもう…下がったみたいですね」
目の前にいる栗色の髪の人が、私のおでこにサラリと手を置いた。
おっきい手だなぁ。
「名無し子…さっきはいきなり抱きついてごめんね。その、私、嬉しかったの」
すぐ隣で望美さん?が口を開いた。
「私、記憶が無いんです」
「え?」
「ここに来る前は、平成時代にいて、望美さんと仲が良かったような気がする…でも、それしか思い出せないんです」
言いおわると、望美さんはとっても悲しそうな顔をして私の体を抱き締めた。
「いいんだよ‥私は名無し子に会えただけでも嬉しい」
「望美さん…」
「望美、でいいよ」
望美の涙が、まるで私の中に入ってくるようで、暖かくて私の瞳からも涙が溢れて止まらなかった。
「望美のために早く記憶を取り戻そう!」
そうしよう。
私は縁側に座って、足をぷらぷらさせていた。
望美はもう寝ちゃったよ。
私の顔見たら安心したんだって。…そんな御利益ありそうな顔してないんだけどなぁ。
「なぜ望美さんの為に、なのですか?」
後ろから、フフッと笑い声が聞こえてさっきの栗色の髪の人が現れた。
「お隣り、失礼します」
「あ、どうぞどうぞ」
二人並んで縁側に座る。
なんか妙な光景だなぁ。
どうやら今は夜中らしい。
サワサワと夜風が髪を揺らす。気持ちいいなぁ。
夏だから昼間は暑いけど、夜は最高ですよ
てことは、
寝込んだ時間は4〜5時間程度かな?
なんだ面白くないなぁ。
普通、悲劇のヒロインって一度寝込んだらしばらく起きてこないじゃん?
白雪姫とかさぁ
眠りの森の美女とかさぁ。
王子が来てチューして目覚めるっていう、おいしいシナリオは私にはないのか?
チッ…私おいしくない!
「僕は武蔵坊弁慶といいます」
「えっ、ムサい棒?」
どんだけムサい棒なんだろ‥
「武蔵坊、です」
「あ、弁慶さんね!はいはい覚えましたよっと」
笑ってるけど内心怒ってるくさい…。もう二度と、苗字で呼ばないよう気を付けます。(武蔵坊って苗字だよね?)
弁慶さん、何か恐いなぁ。
「あなたのお名前は?」
「え、私?平凡名無し子ですよ」
「名無し子さん…とお呼びしますね」
「は、はぁ、どうぞ?」
別に呼び捨てでも構わないのに。律儀な人だなぁ。
で、さっきの話の続き。
「私、記憶喪失らしいんです。でも思い出そうとすると、さっきみたいに頭痛くなったりして…」
弁慶さんは真剣に私の話を聞いてくれてる。私も真剣に話さなきゃいけないなぁ…