第三章

□Vol.3
1ページ/10ページ

「よう、やってるな」

「あっあなたは…」

「……よう」



箱入りむすめのススメ3
 〜たくらみ…?〜



雑用らしく、
玄関の掃除をしていたところで突然話かけられた。

振り向くと
ずっと前にここに来て、女郎の姐さん達にきゃーきゃーと騒がれてた蒼い髪の人と、
知盛さんが立っていた。



「ど、どうも」

「へえ〜本当に雑用なんだなお前」


蒼髪の方にじろじろと見られる。


「…何しに来たんですか?」

「あ、そうだった。今日は遊びに来たんだよ。な、知盛」

「……」


聞かれても知盛さんは答えなかった。
それでも蒼髪の人は一人で喋り続ける。


「やっぱ京の都では、ここが一番いい女揃ってると思うわけよ。まあ、お子ちゃまのお前には分からない話かもしれんがな?がはははは!」


……おい。
一体何をもってお子ちゃまだと決め付けるんですかねこの蒼髪野郎は!
私だってぴっちぴちのぷりっぷりの17歳よっ!
大人の階段駆け上ってる最中だっての!
わ、私だってこどもじゃないんですからねっ!
ぷんすこぷんすこ!



「…用事があるなら、早くそっちに行ってください」

「お?客に対してその口の聞き方は何だ?」

「いたいけな少女の心を傷つける方はお客じゃないやいっ」


キッパリとそう言うと、
ニカッと笑われて、バンバンって乱暴に肩を叩かれた。
いっ痛い!
痛いじゃないかい!!



「ははっ、言うなお前〜!」

「ちょ、痛い痛い!そんな強く叩かないで下さいっ」

「がっはははは!!」


私の肩を叩きまくる兄とは打って変わって
涼しい顔をして、知盛さんは言った。


「…兄上、そろそろ参らなければ」

「ああ、そうだったな。じゃあな、また会おうぜ?」


知盛にそう言われると、
蒼髪の人はスッと私から離れて着物を正した。


また会おう?だぁ!?
もう会いたくないっての!

そう思いながら、
去っていく二人の姿を見送る。



「・・・・」

ふ、ふーん…
知盛さんも遊郭で遊ぶんだ・・
そ、そりゃあここに来たんだから遊んで当然だけどさ…!


「・・・・・」


そう、思うんだけど・・

ちょっとだけ淋しさを感じた。





「…ってなんで私が淋しくならなきゃいけないのっ」



あぁ、馬鹿らしい馬鹿らしい!
とっとと掃除終わらせて寝てしまいましょう…

そんなわけで
その日は急いで掃除を終わらせて、早めに床についた。




「今頃知盛さんたちは女の人と淫らに遊んで寝てるのかな…」


大人って凄いね…
え?私の想像も大概凄いって?
いやいやいや・・


って。



「うはっ、私ったら何を想像して…っ早く寝よう!」


こういう時はあれしかないね!
羊大作戦ですよ…っ


「羊が一匹羊が二匹…すーすー」


さっすが羊効果!
私は羊を数えだした途端、
深い眠りについてしまった。


羊はすごいね…むにゃむにゃ




その夜。

「…知盛さま?」

「……」


突然手を止めた知盛に
不思議がる。


「どうなさったのですか?」

「…いや、」

「私がお嫌いですか…?」

「そうでは無い」

「なら、どうして…」


手を止めたの?
あと少しというところで。


「…」

「…」


しばらく沈黙が続いた後
知盛は突然、着替え始めた。
相手の女は戸惑うばかりで、今もまだ、一人仰向けで目をパチクリさせている。


「…悪いな、今夜はその気になれない」

「え?知盛さま!」

「これは詫びの代金だ…貰っておけ」


チャリチャリと銭を落とし
知盛は部屋から出て行ってしまった。

残された女は銭を拾うことなく、
虚ろな瞳でじっと天井を眺めていた。


「私はお金ではなく、あなたが欲しいだけでしたのに…」


すっと涙が一滴流れた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ