短編

□Iam譲
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「譲くーん!」

「あ、先輩」


今日も平穏な一日がはじまる。


「早いね」

「ええ、今日は俺、日直ですから」

「そっか。じゃあ途中まで一緒に行こう?」


そう言って笑うのは
幼馴染で一つ年上の、春日望美先輩。

俺の…片思いの相手。


「ええ、いいですよ。一緒に行きましょう」



先輩と階段で別れたあと
俺はいつも通り、
教室へ向かって歩き出した


んだけど…



『おい譲』

どこからか、俺の名を呼ぶ声がする。


「な、なんだ?誰だっ」


『ここだよ、ここ』

「??」

『俺はお前だよ、有川譲』

「なにっ!?」


そう言うと
突然、俺の体からムズムズと何かが飛び出した。


『はー、やっと出られた』

「お、お前は…!?」

『あ?だから俺は有川譲だって。俺はお前』


目の前に現れたのは
他でもない……俺自身?!

確かにその姿形は俺そのものなんだけど…
お、俺はこんな野蛮な性格じゃないぞ…


『今までお前が表の世界に居たんだ。今度は俺が表の世界で生活するぜ。別にいいよな?』

「は?何言ってるんだよ」


言い合ってる間にも
そいつは学ランの襟元もゆるめて
第二ボタンまで外しかかっていた。


「お、おいおいおい。よく意味は分からないけど、俺は第二ボタンまで開けたりしない。早く閉めてくれ」


そう言うと
そいつは顔をしかめた。


『はあ?うるっせーな。これは俺のやり方だ!』

「俺はそんな事しない!」

『俺はお前でお前は俺だ!』

「意味が分からない!」


すると、ハァと深く溜息をついたあと
そいつは俺に近寄ってきて


『いわいる"二重人格"ってやつ?誰にでもあるだろ、表と裏の顔』

「…?」

『いわいるお前が"表"で俺が"裏"の顔ってわけ』

「…頭大丈夫か…?」


ハンッと嘲笑うように笑うと
そいつは俺の胸に手を押し付けて…


『信じらんねーなら、一度"裏"の自分になってみるといい』

「おいっ、待て!」


押し付けられた手のひらからは
何だか怪しげな光がポウポウと光り始めて…


いやな予感が止まらない。



『まー安心しろ。少なくともお前よりは良い男として生きてやっから!』

「い、いやそういう問題じゃ…っ」

『じゃーな、譲』

「う、うわああああああ!!」



次の瞬間、
どんっと体を押されたかと思いきや
俺の体は消えていった…



な、なんでこんな事に……


俺にはまだ、
遣り残したことがあるっていうのに…



む、無念………
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