別路 蒼の章

□Vol.1
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「…ん。あ…れ……。ここ、どこだ…?」


目を覚ましたら
そこはいつか見た平家の屋敷だった。



箱入りむすめのススメ 蒼の章
 〜黒い繋がり〜



「……俺は確か、」


若干痛む頭で、記憶の綱を辿る。

そう、俺は確か現代にいて
ついさっきまで望美と居たんだ。

望美と居て…
それから…それから…?


「学校で宿題やってた、よな…?」


なのにどうして『ここ』に居るんだ。
なんで俺は平家に戻ってきてるんだ。


「…ん?平家……?」


平家と聞いて
何か重大な事を忘れているのに気が付いた。

ここは平家で、
平安末期で。

さっきまで俺がいたのは平成で、
学校で、望美がいて。


それで。

それで…?


一向に回らない頭で考えていたら、
すすっと静かに襖が開いた。


「将臣殿、目は覚められましたか?」

「…あ……」


姿を表したのは
一見、物腰柔らかで優しそうな若い男。

知らない筈なのに
自然と口から漏れたのは、他でもない、そいつの名前。


「経正…か…?」


疑わしく言い放った俺に
そいつはクスクスと声を出しながら笑った。


「ええ、経正です。今朝の寝起きはあまり良くないようですね」

「…」

「食事の支度が出来たようです。準備が出来ましたら、居間へ来てくださいね」


そう言って、男は去った。


「経、正…?」


なんで俺は知ってるんだ?
あの男の名前を。

初対面で知らない筈、なのに…。


虫の居所が悪いまま、
俺は居間とやらに向かった。


「おいおい、居間の場所も分かんのかよ…」


勝手に動いてくれる、自身の気味の悪さに苦笑いを溢しながら。
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