第三章
□番外編 認めたくない事実
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「いや…。私はまだ、このお屋敷にいたい…」
「もう決まった事なのだ。これを機に、ますます平家が栄えるというもの」
「父上、待ってください。私はまだ、そんな歳では…っ」
慌てる私に、父上は言う。
「徳子、お主も我が娘ならば分かるであろう。今、ここで天皇家に嫁がなければ、わが一門に後がないことを…」
「……」
「伊豆の頼朝が力を付けてきている。…賢い主なら分かるであろう?源氏が再興しようとしているのだ。一度は我ら平家の前に滅びた源氏が」
「……」
「今ここで後白河を味方に付けておかねば、平家の明日が脅かされる」
「…だから代わりに、私にそれを繋ぐ架け橋になれ、と…」
「そうだ。でなければ、もしも源氏が再興してしまった時には、和睦として徳子を頼朝に嫁がせなければならぬことになる」
私が、源氏に……嫁ぐの?
急に頭がふらふらとする。
あの源氏の元へ嫁ぐなど、吐気がする。
源氏の話は父上や母上、それに兄上達から聞いている。
ひどく野蛮で、卑劣な人種だと…
「徳子、分かってくれるな?」
肩を掴まれた。
父上の目線はまっすぐ私を見つめている。
瞳の色まで、その髪と同じ紅色に、鋭く光っていた。
「……少し、考えさせて下さい」
震える唇で答えた。
考えさせて欲しいと時間を頂いても、結果は変わらないと分かっていながら。
そう、誰も父上には逆らえない。
誰も――…。
あぁ、父上…
父上は徳子の気持ちを
何も理解をしてはくれないのですね。
私は知盛兄上が好きなのです。
小さい頃からずっと大好きなの。
兄上以外の男の人なんて考えられない。
けれど父上が望むなら…
それが平家の為ならば……。
涙を堪えて廊下を歩いた。