第四章

□Vol.4 平泉ってどんなとこ
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「な、なんだこの急展開」



一人、馬に乗った役人がパカパカと前を歩く。

いや、正確に言うと
前を走っている、といいますか。




「やっ・・役人さん役人さんっ!」


「何だ」


「もうちょっとゆっくり歩いてくれませんかね?」


「それは無理だ」


「!?」




ご、拷問だ・・!!
馬に乗って先を行く役人。
もちろん自分の足で地面を歩いていく私。

・・・馬の歩く速さと私の歩くペースを考えてほしいって話ですよね、まったく!
軽く徒競走入っちゃってますよ、これ・・!



「ぜーぜー!で、でもダイエットにはかなり良いかも・・・っ」



息も切れ切れにしながら
汗を拭う。

すると、目の前を歩いていた役人が
突然馬を降りて、私を見下ろした。




「何を言ってるんだ。着いたぞ、身なりを整えろ」


「へっ」




見上げればそこには
なんていうか、その、大きくて立派な建物が健在していたっていう。




「ど、どこですかここは」


「どこって・・。平泉のお屋敷だよ。お前は今日から、ここで護衛の仕者として働くんだよ」


「えっ!?」



そ、そうだったのか・・・!

おばあさんったら、
「強くおなり」なんて言うから
てっきり戦に狩り出される村人Aとか、町人Bとか
そんなポジションに着いて戦に行って来いやコラ!!って事だと思ってましたよ。


頭をポリポリ掻きながらボーッとしていると
役人に物凄い形相で睨み付けられた。



「貴様・・・・。御館様の前では、決して頭なんぞ掻いたりするなよ」


「・・・・は、はい・・」



・・・・おばあさん。
私、なんだか凄い所に来ちゃったみたいです。


ああ、これがまさに『可愛い娘には旅をさせろ』ってヤツですか?


それにしたって、
館の護衛なんて・・・





「私に勤まるのかなぁ」


ハァ、と小さくため息をついている間にも
役人は館の廊下をずんずんと進んでいく。



「本当は女子を護衛に仕えさせるなんて、私は反対なんだがな」



前を歩く役人の着物の袖が揺れる。

なるほど。
平泉のお屋敷も、中々に立派らしい。

私は、言葉に耳を傾けながら
廊下から見える庭園を眺めながら歩いた。




まるで京の都のように
そこはとても綺麗。



「しかしな。人手が足りていない事と、それから若君様が是非お前を護衛の一員に取り入れろとおっしゃられてな」


「私が??」




どうしてだろう、
そんな思いで視線を戻すと
もう既に、そこに役人の姿は無かった。


視線の先には
開放感たっぷりの大広間。



「わ、なに、ここ・・・っ」



きょろきょろと辺りを見渡せば、
広間中央に
何十人かの若い男達が列を作って並んでいた。



「ぎゃ、逆ハーレム・?」


なぜこんなだだっぴろい広間に
若い男がたくさんいるの!?

モテ男教育所か何かですか!?



頭にはてなマークをたくさん飛ばしていると


その中の一人が、
私に声を掛けてきた。



「よっ、お前も護衛兵希望の一人か?」



「え、私?」



気さくな少年の横で
少し大人びた青年が続けた。



「そうそう。俺たちはみんな、この平泉を守る為に集められた者なんだ」


「へー、平泉を守る為の。」


「そ。結構みんな腕っぷしに自信あるヤツばっかりでさ」



そう言いながら、
幼さが残る少年は
ぐるんぐるんと得意げに腕を回して見せた。




「それで?」


「ん?」



得意げに腕を回し続ける少年の隣りで、
先ほどの青年が言葉を続けた。




「君は何が得意なの?女の子で護衛兵に入れるなんて、並大抵の能力じゃないんだろうね、きっと」



にこにことそう問われれば
「あー」だとか、「えーと」だとか
言葉を濁すしか他は無く。




あ、あれ?
そういえば私って、なんで護衛兵に選ばれたんでしたっけ?

今朝起きてみたら、
いきなりさっきの役人に「ちょっと俺に着いて来やがれ!」みたいな事を言われて・・・。

おばあさんは「着いていけばいいじゃない?」みたいな事を言って私を見送ってくれて・・・

あ、あれ・・・・?
そういえば、
私、どうしてこの屋敷に連れてこられたんだっけ・・・。しーん・・。



暫し困惑していると

急に広間がざわざわと騒ぎ出して、
次の瞬間。


ふわり、と
暖簾の向こうから
とても綺麗な男性が現れた。




「う、わ・・・・!」


思わず、感嘆の声が漏れてしまう。
と、とんだべっぴんさんですな、こりゃあ…!?

感動する私の隣りで
集まった男の子たちはみんな、
ゴクリ、と喉を鳴らせる始末。

あー・・綺麗だもんねえ、この人さ・・・。
見た目は男の人っぽいけど・・・



「って。」






あれれ?

あの人昨日畑に居た、ものっすごく上から目線で物を喋る人じゃない・・?!



驚いて目を見開く私に声を掛けたのは

紛れも無く、

その、上から目線のべっぴんさん、だった。






「おい、娘」


「・・・・」


「おい」


「・・・・」



「貴様・・・聞いているのか?」


「あっ私?私ですか!?」


「・・貴様以外に誰がいる」




うわっ
この人、絶対S属性だよ・・・!
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