第四章

□Vol.4 平泉ってどんなとこ
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その翌日。
早朝に、家の前に一頭の馬と役人が現れた。


「この家に何かご用ですか?」


怪訝そうに尋ねると
役人はフン、と鼻を鳴らして、私の腕を引っ張った。
な、なにごと!?



「来い」

「えっ!?」

「御館様のご命令だ。武術を少しでも身に付けている者は皆、館へ集まるようにとの事」

「ええっ何それ!」



今日もいつもの様に、
おばあさんの畑仕事を手伝って
町へ野菜を売り捌くに行くような、そんな平凡な一日を送るんだと思ってた。


なのに
この日は違った。



「さあ早く来い」


「ちょ、ちょちょちょ!ちょっと待って下さいっ」



無理やり掴まれた腕を振り解く。
お、女の子の腕を掴むなんてハレンチだぞ!



「あ、私には家庭というものがあって。お、おばあさんのお世話もしなくちゃいけないのに、そんないきなり・・っ」



あわあわと慌てていると、
後ろからまだ目が覚めていない筈のおばあさんが現れた。


「おばあさ・・っ」


「行っておいで、コーンや」


「え・・・」



おばあさんの事だから
てっきり、役人に向かって
「何訳の分からない事を言ってるんだい!さっさとお帰り!この年中発情期の役人め!」・・なーんて言って、追い払ってくれるのだと思ったのに。


それなのに。
予想とは打って変わって、
おばあさんは私の背中を押し出した。




「コーン・・・強くなりたいのなら、行っておいで」


「あ・・・・・、」




そうだった。
押された背中を振り返れば、
少し寂しそうに笑うおばあさんが居た。



「知っていたよ。お前が裏庭で、毎朝毎夜一人で鍛錬をしている事も。お前が一人、涙を見せないように頑張っていたことも」

「おばあさん・・・・」

「強くなりたいからなんだろう・・・?私は止めないよ、行っておいで」


全部知ってたんだ・・。
私がおばあさんに内緒で稽古をしていた事。
強くなりたいから。
強くなって、もうあの時みたいに
大切な人を目の前で見失わないように。
怪我をしたおじいさんを前に、
どうする事も出来なかった私のままじゃイヤだから。

一人、鍛錬していたこと。



「・・・全部知ってたんだ、ね・・」

「コーン・・私の愛しい娘・・・・」


役人に腕を囚われたままの私にそっと近づき、
私の髪の毛を優しく撫でた。



「行っておいでコーン。お前が居なくなるのは寂しいが、その代わり、お前が強くなって帰ってきてくれたのなら、その時は」



ふっと小さく、
おばあさんが笑った。




「一緒におじいさんを迎えに行くんだよ」


「うん・・・、分かった」




「さあ話は着いたな?行くぞ」




馬を連れた役人が歩き出す。
私もその後をせっせと追い掛けた



「辛くなったら、いつでも戻ってきていいんだからね」


遠くなる向こうの方で
おばあさんの声が小さく聞こえた。
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