第三章

□Vol.17
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そんなある日の事だった。
人もあまり通らないこの山奥の一軒家に、
足音が聞こえたのは。


「っ、誰…!?」


今まで平穏だったから
私は過剰に反応した。

もし野盗やそういった類の者だったらどうしよう。
私一人では太刀打ち出来ない。

それでも寝たきりの知盛を守るのは私しか居ない訳で。


「誓ったじゃん…私が知盛を守るんだって…!」


恐がる自分に鞭を打ち
震える足で、外へと向かった。

そこで私を待ち構えていたのは
予想外の人物。


「重盛さん…!?」

「よう、久し振りだな。やっぱりここに居たか」


それは他でもない、
重盛さんだった。


「随分探したぜ〜。お前らが突然熊野に出掛けたっていうから、急いで追っかけたんだ。中々探しづらい所にいたなぁ」


笑いながら後ろ髪を掻く癖。
将臣くんも同じ癖を持っていた。


「あれ?知盛はどうした。一緒じゃないのか」


その問いに
私は顔を背けて項垂れた。


「なんだよその態度…。何かあったのか?」

「…。重盛さんなら、いいか…」


そして私は全て話した。
知盛と一緒に旅をしたこと、弁慶さん達のこと、そして怪我をした経緯まで全部。


その話を終始無言で聞いていた重盛さんは
私が全てを言い終えた後、
一言、簡潔に聞いてきた。


「つまりお前達は結ばれたんだな?」と。


隠す必要もないと思った私は、
素直にコクリと頷くと
その瞬間。
重盛さんの眼の色が変わった様な気がした。
同時に、辺りの空気がガラリと変わって張り詰める。
さっきまで意気揚揚と笑っていた彼から笑顔が消えた。


「…ふーん」

「あ、あの…。なにか?」


何の抑揚を持たない表情で私を見つめる重盛さんに、
若干の恐怖感を抱いた。


「別に。なんでもねえ」

「そう、ですか…?」


何でもないと言う割には
それでも私から視線を外そうとはしなかった。
それ故、私の方が気恥ずかしくなってしまい
先に視線を反らす。


「と…知盛の様子、見ますか…?」


伺うようにして聞くと
重盛さんは「あー」と言いながら、また。
後ろ髪をボリボリと引っ掻いた。


「今はいいや。それよりまるこ、ちょっと歩かねえ?」

「は?」


実の兄が、病で床伏せっている弟の様子を見てやらないだなんて…

そう思って、私は重盛さんを怪訝そうに見つめた。



「知盛はいいんですか?」

「ああ。今はお前に話があるんだ」
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