第三章

□Vol.17
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「知盛…あのね、今日見たこともないおっきな鳥が家の前に居たんだよ。
すごく大きくてね〜、
ほんとにびっくりしちゃった」







「今日はね、
葉桜が完全に葉っぱになったんだよ。
ほら、この間二人で見たでしょ?
あれが完全に葉っぱになったの。
もうすぐ夏だね〜。
早く来るといいね、夏」







「聞いて聞いて。
今日ね、家の前にリスがいたよ。
すごく驚いたよ、野生のリスって初めて見たから。
意外と爪が鋭くってね、ちょっと怖かったよ。
知盛が見たら何て言うかな?
きっと『可愛くない』って顔しかめて言うんだろうなぁ。くくく、笑えるー」








「……知盛、聞こえる?」







「私の声、ちゃんと届いてる…?」








「知盛が目を覚まさなくなって、もう数日経つんだよ。いつになったら目ぇ覚ましてくれるのかなぁ…?」






あのね、知盛。
一つだけ聞いていい?

怒ってる?

私があなたに無茶させた事。
容態を悪化させてしまったこと。
全部私の不注意のせいで
あなたは今、目を覚まさなくなってしまった。



「知盛、あのね…」



毎日のように語り掛ける枕元。
当然のように、
知盛は眠り続けたままだ。



「もうすぐ梅雨に入るの…。今日は紫陽花が咲いたよ…」





ぽつん、花びらに雫が落ちる。
それは梅雨の訪れを告げるもの。
次第に雨音は強まって、
私の呟きまでかき消した。


「こんなの一緒に居られるって言わない…こんな植物状態の知盛、見てらんないよ…っ!」


雨にぬれた頬から滴るものが
涙なのかどうか、分からなくなった。

こんな状態、もういやだ。
それでも彼は眠り続ける。
だから私は
信じて待つしかないんだ。
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