第三章

□Vol.17
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ところが、不幸は突然やってきた。
知盛の額が今まで以上に熱くなり、呼吸も途切れ途切れに浅くなり始める。


「知盛、気分が悪いの?やっぱり里へ降りようか?」


心配そうに覗き込む私の頬をそっと撫で、


「平気、だ…。平気だから…心配するな…」


と小さく笑った。
それは誰が見ても無理に作られた笑顔で、
触れてきた知盛の掌は
びっくりするほど、熱かった。


「ねぇ…降りようよ、里」


熱い掌を自身の掌で包み込む。
まるで熱された鉄板の上に雪の塊が落ちたみたいに、すぐに私の体温は奪われた。
奪われて熱くなる。
私の冷えた掌は、一瞬にして汗ばんだ。


「じゃないと知盛も私も、いつまでたっても、ここから出られないよ…?」


京の都に帰れないよ、と続けたら


「帰れなくても…出られなくても良い…」


小さく知盛の声が聞こえた。


「帰れなくてもいいの…?」


不思議に思って問うと
「ああ…」と小さく知盛は頷いた。



「お前がここにいる…それで充分だ」


握った掌の上から、
もう片方の空いた手で
重ねて強く、抱き締めた。


「都に帰ったら、お前と共に居られなくなってしまう気がして、な…」

「知盛…」

「だから、傍にいろ…。決して俺から離れるなよ…」


その言葉を最後に
しばらく知盛が目覚めることはなかった。
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