第三章

□Vol.15
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翌朝。
日が昇り始める頃、
私達は民家を後にした。

「これ、旅の途中に食べんさい」

そう言って渡されたのは
小さな葉っぱに包まれた、可愛らしい木の実たち。

なんだか、どっかの映画に出てきそうな包装だなって思ったら
ちょっと笑ってしまった。



「ねえ知盛、熊野まであとどのくらいで着くの?」

「さあな。まだまだ…と言えることは確かだな」

「ま、まじすか!」


そうして今日も
一日が終わっていく。

知盛と一緒に過ごす日々が増えていく。

行った事のない土地も
知盛と二人で、埋めていく。

どんどんどんどん、
増えていく。



「今日はどこに泊まる?」

「……」

「あー、その顔。考えてなかったね?」

「…あれなんか、どうだ?」


そう言って
指を差したのは
明らかに人住んでないだろっていう、ボロ家。


「もっと真剣に考えてよ!…あ、あの民家なんかどう?」

「…ああ、いいな」

「じゃあお邪魔させて貰おう。…こんにちはー!今晩泊めて貰いたいんですけどー」


どこの家も
みんな人柄良い人達ばっかりで、
快く私達を泊めてくれた。

時には、「まだ行かんといてくれ!」なんて腕を引っ張ってくるおじいちゃんおばあちゃんも居て。

本当に楽しい旅だった。




「で、ここが熊野?」

「だな…」


そうこうしてる間に
ついに着きました、素敵熊野…!

すごい緑がいっぱいあるよ…!


「すごーい!これが熊野!?確かに霊気漂ってるかも」

「何を言ってる…さっさと来い」

「はいよ!」


慣れた足取りで先を行く知盛の後を
ちょこまかと小股で追っていく。


二度目の熊野に心を躍らせながらも
私達は足を進めた。



「え〜そんな所降りていくの?危ないよ」

「危なくなど無い…」


しばらく歩いたところで
知盛が茂みの奥へ入っていくから、どうしたモンだと焦ったら。

ざーざーと
止め処なく力強い水の音と共に、目の前に大きな滝が現れた…!
これが噂の那智の滝ってやつですか!?


「マ、マイナスイオンが…!」

「降りるか…?」

「えっ」


私が止めるのも無視して
知盛はどんどん滝へと近付いていくけど…


「そんなに降りたら絶対…あ、転んだ!」


ばしゃーん!!

次の瞬間。
盛大に水を撥ねて、知盛が滝つぼへと落ちた…!

あ、あの知盛が滝つぼに…


「ぶっ…!」

「…冷たい」

「あはははは!知盛がすべって転ぶなんてっ!」


いつもは冷静沈着なあの知盛が。
滝つぼに落ちて全身びっしょびしょになってる。

あまりにも滑稽なその姿に
私は思わず大爆笑。

つられて知盛も笑い出す。


「ククッ…」

「あははははっ。知盛ウケるな〜!」

「…クッ…いいから早く、手を貸せ」

「はいはい、分かりましたよっと…あっ!!」


ぐい。

ばしゃーん!!



……。


あろうことか知盛は
助けてあげようと伸ばした私の腕を引っ張って、滝つぼへと道連れにしてくれやがりました…。
な、なんて事してくれる…!!


「冷たー!!」

「ククッ、ははは…。少しは警戒をしろよ。俺がみすみす助けられる男だと思ったのか?」


笑いながら私を見つめる知盛。
くそ…騙された!


「知盛を信じた私がバカだった…っ」

「それくらい気付け…」


春の滝つぼは
想像以上に極寒でしたよ…!
と、凍死しちゃうよ…!!
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