第三章

□Vol.15
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それから・・・。
私たちは、人柄の良いおじいちゃんとおばあちゃんに囲まれて
おいしいご飯を、お腹いっぱいに食べて…





そして今、
同じ部屋で枕を二つ並べてる。

も、もちろん布団は別々ですからね・・・っ!




「あったかい家だね〜。もうお腹いっぱい…!
最初は知盛が勝手に民家に入っていくから驚いたけど、
田舎は普通に泊めてくれるんだね。知らなかったー。私なんか感動したよ!」


クスクスと思い出し笑いをしながら、横にいる知盛を見つめると



「ククッ・・・。あぁ・・久しぶり、だな・・。こんなに笑ったのは・・・・」



仰向けで目を瞑ったまま
知盛が言った。



「だよねぇ・・。知盛って、普段屋敷で笑ってないモンね。笑えば良いのに・・」




"笑った方が、私は好きだよ?"

・・・・なんて。
ふと、おかしな事まで口走りそうになってしまい
思わず口元を抑えた。

危ない危ない・・・

別に言っても良かったんだけどさ・・
ホ、ホラ!
変に誤解されたくないじゃないですか!
こいつ俺のこと好きなのかYO!みたいなさ、ね・・・!




「笑えばいい・・・か・・・・」


私の言葉を復唱するように
知盛が続けた。



「うん・・・笑おうよ、知盛。いっぱい笑った方が、絶対毎日楽しいと思うよ・・?」


コロン、と知盛の方へ横向きになった。

すると知盛は、
横目だけ向けて、私を見る。



「そうか・・・・?」

「うん、そうだよ〜。私なんか毎日笑ってるよ?笑って腹がよじれて戻らないくらいだよ?」


ホラ、と横っ腹の肉をつまんで見せると


「ククッ・・・」


なんて。
知盛がまた、おかしそうに笑った。




ヘンだ、私・・・

知盛が笑うたび、

笑ってくれた・・・!って

すっごく嬉しくなっちゃう・・・。



なんだろう、この気持ち・・・

この気持ちは一体・・・。




「全くお前は・・・本当に女としての自覚のないのだな・・?」


目を細めて知盛が笑う。



明かりはないけど
高い窓から零れだす月明かりで、うっすらと知盛が嬉しそうな顔をしているのが見えて
胸が高鳴ったのが分かった。



あ・・・綺麗な横顔・・・・・


不覚にも、知盛に見とれてしまう。





「知盛・・・いま嬉しそう・・・。嬉しいの・・?」




さっきまで、
おじいちゃん達と笑ってたからなのか。

ううん…
さっきお風呂にも入ったばかりだからかもしれない。


体中があったかくて、
ぽかぽかしていて、

ふいに
心まであったかくなるような気持ちになった。










「嬉しい・・・・?・・・そう、だな・・・」








少し間が空いて。









「まるこ・・お前といると、何故か俺は笑ってしまう・・・」







トクン・・




胸が高鳴る・・


鼓動が早い。







「俺が嬉しそうだと言うのなら・・そうさせているのは、まるこ・・・お前のおかげかもしれんな・・・」













知盛・・・・・



心の奥がくらりと溶ろける。













「まるこ・・・・


















ありがとう・・・ 」






















知盛―――・・・・。



その瞬間、

私は泣きそうになった。



知盛が初めてお礼を言ったことも

嬉しそうに笑ってくれたことも

全部が全部、

驚きで、嬉しさで、愛しさで、胸が押し潰されてしまいそうだった











「・・・生憎、俺は他人に感情を露にすることが苦手な性分でな・・ククッ、驚いたか?俺が礼を言うなどとは」


「・・・・・」


「ククッ・・まぁ、いいさ。何しろ俺自身、久方振りに礼というものを口にした。
・・・そう悪くないものだな、礼を言うという事も・・」


「・・・・・」





知盛・・・・





「・・・俺は幼い頃からあまり人の感情に触れずに生きてきたからな・・・
正直、俺はお前や重盛兄上が羨ましい・・。よくもまあ、あれだけの感情を露に出来るものだと・・・」



「・・・・・」






あ―――。


私、気付いちゃった・・






「・・・・・どうした?」




なかなか喋らない私を不思議に思って、知盛が顔をしかめる。






「知盛、あのね・・・。その、ずっと一人で・・寂しく、なかった・・?」




「寂しい・・・?」




まるで初めて聞く言葉のように
知盛は唖然とした顔をした。
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