第三章

□Vol.15
3ページ/13ページ





それにしても・・・

何だか変な感じだよ、ね・・・



だってさ、
おキクさんが遊郭を休みにして私を留守番として置いていった後すぐに、
知盛が私を迎えに来て、しばらく知盛の離れの屋敷で一緒に生活してさ・・・

気が付いたら、
なぜか今度は2人で旅行中ですよ・・?


んはっ!!
こ・・これってもしや、付き合ってる?!
ね、ねぇ私達ってもしかして付き合ってるの!?世間巷ではこれって付き合ってるって言いますよねぇぇぇぇ?
誰か教えてたもれ・・・・!



一人じたばたしてると
戸が開いて、さっきのおばあちゃんが私を手招きした。





「娘さん、お腹空いたろう?食事の支度が出来たからおいでなさいな」


「うわぁ!嬉しいです!もう私、お腹ペッコペコっ」



おばあちゃんに連れられて
居間へ向かうと、
囲炉裏を囲って、おじいちゃんが座っていた。



「おお、来たかい。さ、そこへお座りなさいな」


パチパチ火花が散る囲炉裏近くに腰を下ろすと、
同時に知盛が風呂から上がってやってきた。


えっ知盛さん風呂あがるの早!!



「もうあがったの!?早くない??」

「…魚か。中々に…嗜好がいいな、じいさん・・・」


そのマジック並の入浴時間に驚いていたら、
私の隣りに知盛が腰を下ろす。


ドキッ・・

う、うわあ!
なんかその無意識に隣りに座る感じがすっごく憎いよ・・!
だってね、知盛ったらすっごくいい匂いするんだもん・・・
しかも濡れた髪が妙に色っぽいし・・・
隣りにいる私の方が恥ずかしいっていいますか・・



「(うぅ、知盛のバカ・・!)」



無駄に色気さらすな・・!
この時代にはシャンプーなんてモノは無いのに、知盛の体からいい匂ひがしまくっている。
うぅ、女の私が見劣りするほどの気品のよさ・・
やっぱり知盛ってお坊ちゃまなんだなぁ・・・なーんて、
心のどこかでそう思った。






「おぉ、兄ちゃんも揃ったな。ばあさんや、そっちの兄ちゃんに汁をやってくれ」

「はいはい。はい、どうぞ。たんとお食べ」

「すまんな・・」



いつもは豪勢な食卓に囲む知盛が
こんな風に庶民的な囲炉裏を囲んで食事を取るなんて、
なんだかすごく変な感じ。

でも同時に、
なんだかすごく、親近感・・・


さっきから意外な一面を見せられ続け
知盛にドキドキしながら
私も続けて汁物をすすった。



「あっ、おいしい!」


思わず口にした言葉。
その言葉を聞いたおばあちゃんは、にっこりと嬉しそうに微笑んだ。


「そうかい・・。そう言って貰えると嬉しいねぇ。
うちには質素なものしか無いけれど、腹を膨らませる事くらいは出来る。
さぁさ、たんと召し上がれ」



並べられた食べ物は
確かに質素ではあったけれど、とても温かい味がした。



「おいしいね、知盛」

隣りで魚をつついている知盛に向かってそう言うと
ククッと一人、笑い出した。



「クッ・・・相変わらず食欲だけは良いな…」

「うっ!」


グサグサグサッ。
思わず箸が止まった。



「その様子だとまた増量するな・・」

「うっうるさい!いいでしょ、ほんとにおいしいんだからっ」


挑発してくる知盛にムッとすると
おばあちゃんがにっこにこ笑いながら


「さあさ、まだまだあるから、たんとお食べなさい」


なんて言うから


「ホントですか!?わーい!いっただっきまーす!」


再び箸を持ち上げて身を乗り出すと



「ククッ…ははっ」


なんて。
知盛がクスクス(!?)笑い出したんだ…


と、知盛がクスクス笑うだなんて・・・?!
(いつもなら、クッ・・だとかフッ・・だとかそんな嫌味な感じで笑うんですがね)


こりゃあ雪でも降るかな、と思っていると




「威勢のいい娘だの。料理の出し甲斐があるってもんだ。さ、こっちにも山菜があるからな」

「わー!」


おじいちゃんが山菜がこんもり盛られた皿を
目の前にゴトッと置いた。



「また太る・・」

「いっ、いいの!」


知盛のちょっかいも飛んできたりして
なんやかんやで、食卓の場は賑やかになっていく。




なんだか良いなぁ、こういう雰囲気・・。

なんだか、いつかどこかでも
こんな風に、みんなで楽しく笑っていた時期があったような・・・


















『ふふ、まるこは本当にそそっかしいのだな』

『あー!もうあっちゃんもそんな風に私の事いじめるんだー!』

『わ、私はいじめているつもりは・・』

『いいのですよ敦盛殿。まるこは本当にトロくてそそっかしくて、この世に生まれてしまった事事態が残念な女なのですから』

『な、なんだってェェ!?惟盛、このオカマ野郎!』

『んなっ?!』

『まぁ、何をそんなに騒いでいるのです』

『あっ時子ママー!聞いてよ!ひどいんだよっ、惟盛がねー!!』

『なっ、まるこ!尼御前に告げ口をするなどとはっ・・・!』

『・・・・・ふぁ・・・・』

『あ、知盛。』

『おはようございます、知盛殿』

『・・・ん・・?あぁ、おはよう・・・』



















それでも記憶は戻らない。














「しっかし、本当に男前な兄ちゃんだねぇ。兄ちゃん達、一体どこから来たんだね?」


酒も入って
どんどん気がよくなっていくおじいちゃんの顔は真っ赤。
隣りに座るおばあちゃんは、
相変わらずにっこにこしながら
しわくちゃの目尻をぎゅっとして、すごく可愛らしく笑っている。

なんでおばあちゃんって
みんなこんなに可愛いんだろう…?


「どこから、か・・・。・・・・京から、だな・・」

「ほう、京の都かい!それじゃあ、ここへ来るまでさぞかし苦労した事だろうねえ」

「苦労?」



聞き返すと
おじいちゃんは、うんうんと頷いた。



「なんでも、今の京は荒れに荒れていて大変だそうな」

「そうそう。こんな田舎の百姓の耳にまで届いてる。平家だの夜盗だのと、物騒なのが動いてるって話だねえ」


おばあちゃんが相槌を打ちながら、沸かしたお湯でお茶を煎れてくれた。

私はそれを受け取りながら
視線を少し、床へと落とした。




平家…

ここでもその言葉があがる。

京から離れたこんな田舎の地でさえも知盛は、
平家っていう家柄から逃れる事が出来ないんだ・・・

当たり前な事だけど、
私だったら、息苦しくて窒息しちゃうかも・・




知盛達、一門の人達って

なんだか少し、可哀想・・・



ふと、そんな事を思ってしまった。




「・・・そうだ、な・・・。大変といえば大変だったが・・・」

「だろうねえ。でも、安心しとくれよ」


知盛は平家という言葉に触れずに、当たり障り無く答えると
おじいちゃんは、またうんうんと一人頷いて
知盛の手を握った。

う、うわわわわ!
知盛の手を握るだなんてっ!
京の人達は絶対そんなこと出来ないのにっ・・・恐るべし田舎者・・・!

おじいちゃんの無礼?に、一人あわあわビクビクしていると
何も気に居なさそうな知盛が続けた。

・・・ホッ。
知盛って、時々心が広いっていうか何ていうか・・
ささいな事で怒らないよなぁ
エライなぁ・・・


また一つ、
私の中で 知盛の魅力が増えていく







「ここは名も通らないような田舎の地だ。だーれも来ない。悪いやつも平家とかいう物騒な連中も」


それに続いて
おばあちゃんが
また、にっこりと笑った。


「そうだとも。だから安心して泊まっていくといい。暮らしは貧しいけど、ここは平和だからね」


その言葉に
知盛が頷いた。




「ああ…。遠慮せず泊まらせて貰おう」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ