第三章

□Vol.15
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その後は気まずかった。
弁慶さんのことを歩きながら数分後に思い出した知盛は、


「クッ・・・お前は一見生娘に見えて、実は大胆な女だったのだな・・」とか

「男好き・・・か。ククッ、まぁ遊郭に居たらおのずとそうなるのであろうな・・」とか

「ククッ・・弁慶とやらに問うてみたいわ・・お前ような色気の無い女と何故旅を共にしたのか、と・・・な」とかね。


ハイ。
色々ひどい言葉を私に浴びさせてきた訳であります。

ムッムカっときますよね普通!
なんで男の人と一緒に旅しただけでここまで言われなくちゃいけないのかってさ・・!
まぁ、この時代男性と共に旅をする・・・しかも2人きりっていうのは、
やっぱりちょっと、そういう関係に見られちゃうのが普通なんだろうけどさ・・
でも全然そんな事なかったし・・・。
あ、そんな事っていうのはアレですよアレ!や、やましいことって意味ですよ・・!ぎゃー恥ずかしい!!(白目)


兎にも角にも知盛さんには色々と誤解された訳であります!
んもう!
これじゃあ無実潔白の弁慶さんになんか悪いじゃないか・・!(まぁ知盛が弁慶さんに絡むことなんて絶対無いと思うけどさ!)



「おい・・・そろそろ日が暮れる」


「・・・・」


「・・・?おい・・・・」


「っんあ!?ああっハイハイ、日が暮れますかそうですかっ」


悩みながら歩いてたから、
知盛の呼び声に中々気づけなかった。

ハァ。
私が一言、「弁慶さんとの熊野旅行は、私が知盛のことで傷心してたから、その傷心旅行だったんだよ」って言えば済むことなのに・・・
やっぱり言えない・・・



「ハァ・・・」


「・・・溜息か・・。クッ・・いいご身分、だな・・?」


「あっ?!」



いけないいけない!
うっかり自分の世界に入ってしまっていましたよう!

気が付けば、辺りは一面茜色。
じきに日が暮れてしまう。




「今宵はここに泊まるとするか・・」


「え、ここって…」


今晩泊まるとこどうするんだろ、ってちょうど思っていた矢先、
知盛がそんな事を言って、ずかずかとどっかの民家に入っていった。

ノックもしないで・・・!
ヒィ・・・!非常識!なんて恐ろしい子・・・!(白目)





「とっ知盛さん!人ん家に勝手に入ったらダメだから!不法侵入いくない!!というか私他人のふりしてもいいですか?」



慌てて知盛を止めようと
私も民家へと続いて入っていく。

と、急に知盛が目の前で立ち止まったモンだから
勢い余って、知盛さんのでっかい背中に頭をぶつけましたとさ…

い、いたい・・・・



「突然止まらないで下さっ・・!」



「お前さん達、旅人かい?」


「えっ?」



ぶつけた鼻を押さえていたら
奥の方から、小柄なおじいちゃんがやって来た。

ほ、ほらやっぱり人が住んでたじゃないか!
これで不法侵入決定だ・・・!

私は怒られたくない、逃げなければなんて思っていると
おじいちゃんはジィィィっと私達2人を見つめてから、こう言った。



「ああ、やっぱり旅人さんだねえ。よく来たねえ。さ、お入りな」


「えっ・・・」




おっおじいちゃん・・・・

私は一人ポカン。
知盛は当然、という顔をして、ずけずけと奥の部屋へ入っていく。

え、えーと・・・
私達は何やら旅人らしさを醸し出しているようですよ?
2人とも普通の着物着てるのに、おじいちゃんには旅人ルックに見えてしまったらしいよ・・・

何が何だか・・・



「ね、ねぇ知盛・・」


「・・・・何だ・・」


「この人達、知盛のこと知らないのかな・・?」


ボソボソと知盛に耳打ちする。
だって、ねぇ・・?
京の人達は知盛を見ただけでももう発狂するくらい騒ぐってのにさ。
「キャー知盛さま!!」とか「おおお知盛殿だぁぁぁぁ!!」とかね・・?

いくらここが京から離れた場所だからって、
知盛の存在に騒がないって事はさ・・・
おじいちゃん、相当ボケちゃってるのかな・・?


まぁいっか。
そう思い、
私は知盛の後に続いて
奥の部屋へと向かった。





「ねぇねぇ知盛さん知盛さん」


「・・・・ん・・?」


「この家、ほんとに民家って感じの家だねぇ」


昔ながらの木造建築。
部屋は畳と木の香りがして、
廊下は歩くたびにギシギシと味のある音がした。



「ねぇ知盛、聞いてるのって・・・ギョ!!」


振り返ったらビックリ仰天。
だってそこにはもう既に。
腰を下ろしてリラックスモードに突入している知盛さんが居たから…!
オィィイイイ!


「な、何もうくつろいじゃってるんですか!?」


ここ人ん家ですからねっ!!

切羽詰まった感じで聞くと
ケロン、とした顔をして知盛は言った。




「・・・何故お前は腰を下ろさない・・・?」


「えっ…」


なら何故あなたは腰を下ろしてしまったの?

私はまだ、なんでいきなり民家に入って
しかもなんでいきなりここに泊まろうとしてるのか、ていうか泊めて貰えるんだろうかどうなのか、
そこら辺困惑したままだっていうのに。

この男ときたら全く。
本当にマイペースだから困ったものだ。


半ば呆れながら知盛を眺めていると
すすっと襖が開いて
今度は、可愛らしいおばあちゃんが現れた。



「旅のお方。疲れてるかと思って、お風呂の準備をしといたよ」


「あぁ・・」



おばあさん分かってるゥ!
ちょうどお風呂に入りたかったんだよね〜って…違う。違うよ…!

うっかりすっかり
知盛ペースに流されるとこでしたよっ…!



「ちょっと知盛っ」


「俺は風呂へ行ってくる・・」


「はぃぃぃぃ!?」



それだけ言うと
知盛は何も持たずにお風呂場へと行ってしまった。

え…えええええ!?


この展開に未だついていけない私は、
とりあえず知盛が戻ってくるまで
部屋で待機することにした。



「知盛ってほんと自分の事しか考えてないよね…少しは状況説明してくれるとかさぁ。なんかそういう事して欲しいですよね全く」


プンスカと独り言を言っていると




「あ・・・」


木の匂い。

どこか田舎のおばあちゃんちを思い出させる様な懐かしい匂いがして。




「まぁ・・・とりあえず知盛さんを待ちますか・・」



怒るのを止めて、
ストンとその場に腰を下ろした。
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