第三章

□Vol.14
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「…重盛殿?」

「ん、なんだよ」


事は数分前に遡る。


本殿にいた重盛は、
敦盛と共に
何もするわけでもなく、
ただボーッと桜を眺めていた。





「重盛殿…いま何か聞こえませんでしたか?」


不安げに問う敦盛に
あ〜〜と唸りながら、
重盛は寝そべっていた体を起こした。



「別に。俺は何も言ってねえよ」


「そう、ですか…」


「空耳じゃないのか?」


「…だと、いいのですが…」





そしてまた
再び沈黙のあと。





何を思ったのか。
突然、重盛が立ち上がって辺りを見渡し始めた。





「なあ、そういや知盛どこ行った?」


「知盛殿?…知盛殿なら、最近あまりお見掛けしませんが」


「だよなー。数ヵ月前から、あいつ何か変なんだよな」




それから暫く
考え込む素振りを見せて。




「よしっ。んじゃちょっくら知盛探してくるわ」


暇だし、と付け加え、
重盛はずんずんと部屋から出ていってしまった。




「あっ、重盛殿っ」


残された敦盛は一人、
また桜の木を眺めて呟いた。





「あ、雲行が怪しくなってきた…」



















それから重盛は
屋敷の女官や護衛兵に、知盛の居場所を聞いて回った。

が、しかし。
幾人に訪ねてみても、
誰も知盛の居場所を知る者はいなかった。



「誰も知らないって…アイツ忍者かよ」


それでも中々見付けられない事にワクワクしてきた重盛は、
とうとう、知盛の部屋の前までやってきた。



「おーい知盛、入るぞ〜」


返事も待たずにガラガラと襖を開ければ、そこには…



「…布団が、ない…」


それどころか、
必要最低限の物しか置かれていない知盛の部屋が、
いつもよりも更に殺風景な部屋へと進化していた。



「おいおい、家出かよ」


本音を漏らしながら近付けば、
それでもまだ
生活感は少し残っていて。



「家出じゃないのか。だとしたら、」


また少し考えて、
重盛は目をつむった。



「そういや最近、離れの屋敷に行ってねえな…」


離れの屋敷…もしかしたら。
そう思い、
重盛は再び足を動かして、
今度はここより離れた、小さな屋敷へと歩き出した。



それがちょうど、
数十分前のこと。


そしてこれが、
数十分後の出来事。




「おっ、お前…!キクんとこで働いてた雑用の…!!」

「しっ、重盛さん!?」



重盛と少女は
互いに見合って固まっていた。
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