第三章

□番外編 雨の中で
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目が覚めればまだ夜で、
辺りは暗いまま。


もう一度寝ようにも寝れず、
すっかり目が覚めた体で
一階の台所へ向かった。



「あ、おキクさん」

「なんだい、まだ寝てなかったのかい?」

「いや、一度寝たんですけど、目が覚めちゃって…」


どうしたモンかと笑いながら頭をかくと、
おキクさんはにっこり微笑んだ。
今日は仕事がない日なのか、書物を読んでいたみたい。


「今日はお月さんが綺麗だからね。そのせいで目が覚めたんだろう」


そう言えば、
さっきあれほど強く降っていた筈の雨はすっかり止んでいた。
代わりに
大きくてまんまるな月が
一つ、空の真ん中でキラキラと輝いていた。


「酒でも飲むかい?月見酒」


そう言って、とっくりを片手でぶらぶらと持ち上げ私を見る。


「いえ、まだ未成年なんでいいです」


ふるふると首を横に振ると、
「なんだい、つれないねぇ」とわずかに笑いながら、おキクさんは自分のお猪口へと酒を注いだ。



「……月ってのはさぁ」


ふと独り言のように
私の後ろで口を開いた。


「女は見ちゃいけないんだ」

「どうしてですか?」


振り返ると、おキクさんがフッと切なげに笑った。


「月を見ると女って生き物は、どうにもこうにも悲しくなっちまうそうだ」


ぐいっと酒を飲み干した。


「悲しくなる…」


思わず私も復唱した。

確に月を見てると悲しくなる。
何か昔を思い出しそうで。

ない筈の記憶がありそうで。

待つ筈のない誰かが
待っているような気がして…

胸が痛い。



「…あ」


そして何となく
脳裏に知盛さんが浮かんだ。
思い出しただけで、きゅううと胸の奥が痛くなる。


「会いたい…」


悲しいくらい、今あなたに会いたい。

最近の私はどうかしてる。
時々しか顔を見せない知盛さんを
毎日探して待ってる。
どうして…?



「誰に会いたいんだい?」


ふと冗談ぎみに笑われた。


「あ、やっやだな〜!独り言ですよっ」


慌てて誤魔化しを入れると
見抜いたようにおキクさんは笑った。



「お前はいい恋するんだよ」


月の光で
おキクさんの顔が、ちゃんと見れなかった。


お前は…?
それってどういう意味だろう。



その夜は眠れなかった。



月が輝く夜は
必ずあなたを思い出す…。

揺れる心


あなたは今、

どこにいますか―?



‐番外編おわり‐

確か9月のホレストさん大改装?のときに、サイトにアップ出来なかったので日記にアップした話だったと思います。
どうでもいいけど、私は男を泣かせるのが好きみたいですね(笑)
泣かせすぎて逆に気持ち悪いっていう、ね…申し訳ない。

最後の「あなた」を知盛として取るのか、それとも他のキャラとして取るのかは
あなた次第でございますm(__)m

H19.9/7
たるたる
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