第三章

□Vol.5
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「おばさん!次の料理は?」


ぜーぜーと息を切らせながら
台所に戻ってきた。


「随分早かったね。次はこれ、桃料理」

「は〜い」


ガラスの綺麗な器に
薄紅色の桃がいっぱい並べられていた。
お、おいしそう!


「今度は知盛さまと重衡さまにお出しするんだ。分かったね?」

「了解しましたっ」


ぐるるるぅぅ…
さっきから鳴りまくりなお腹を押さえながら
私はまた、広場へと向かった。


「知盛さんとドッペルゲンガーさん、桃ですよー!」


どんっ。
大きな音をたててお皿を置くと
知盛さんが薄く笑いながら注意してきた。
(隣りの知盛さん似の人は、ドッペルゲンガーって単語に対して、???とよく分からないって顔をしてる)


「…全くお前は。もう少しおしとやかに置けないのか?」

「うるさいなーもう。こっちはお腹すいてんですよ!何なら桃よこしやがれ…!!」


バチバチ!
でかい火花を飛ばしあってると


「それなら私の桃をあげましょう」


って、隣りから天使の声が聞こえてきた。



「え…良いんですか?」

「ええ、構いません。ですが一つだけお願いがあります」

「お願い?」

「はい。この後、私の部屋に寄って少しお話しませんか?それが可能でしたら、この桃を差し上げます」

「え?!」


へへへ部屋に来いってさ!
大胆華麗だねこの人…!
ドッペルゲンガーのくせにさ…


「ど、どっぺるげんがー…」

「?」


見兼ねた知盛さんが笑った。


「まるこ、こいつは俺の弟の重衡だ」

「重衡、さん…?」

「ええ、初めましてまるこさん」


ドッペルゲンガーじゃなかった!
弟のくせにお兄ちゃんと顔そっくりだというこの罠。どうしてくれよう…!


「でもいきなり殿方の部屋にってのは…」


もじもじと戸惑いながら桃を視姦してると
重衡さんが穏やかに笑った。


「襲ったりは一切致しませんから、ご安心下さい」


そうは言われても…
未だ戸惑いながらも
今度は知盛さんに尋ねてみた。


「どう思いますか、知盛さん」

「どうって…」


半分呆れたような顔をされて
その後フッと笑われた。


「…良いんじゃないか?重衡も中々やる男だし…」


やるって何を?!


「では決まりですね。参りましょうまるこ」

「ああっ待って!桃…!」


引っ張られる前に
慌てて桃の皿を掴んだ。


「では兄上、お借りしますよ」

「どーぞ?」


開いた手に、重衡さんの手がゆるゆると下りてきて、しっとりと握られた。
ひ!

慌てて、助けを求めようと
後ろを振り返ったんだけど

だけど…


「あ…」


さっき私達が居た場所に
今度は知らない女の子が座っていた。
とっても可愛い顔して、すごく楽しそうに知盛と喋ってる…


「あの人は…?」

「妹の徳子ですよ。兄上のお気に入りなのです」

「知盛さんの…」


お気に入り。
ちくんと胸の奥が痛んだ。


「さあ私達は部屋に行きますよ」

「は、はい」


手を引かれながら
広間を後にした。


時々後ろを振り返って
知盛さんとその、徳子と呼ばれる女の子のツーショットを眺めながら。


楽しそうに笑う知盛さんと
嬉しそうに話す徳子って人。


なんだろう。
ちょっと苦しい…。
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