第三章

□Vol.5
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「知盛さま、重衡さま、此度の御元服、真におめでとうございます」

「真、めでたいですなぁ!」

「そうですとも。少し時期は遅れてしまわれましたが、こうして御祝い出来たのですからねえ」

「これで清盛殿も心おきなく源氏討伐が出来るというもの」


ふわっはっは!なんて笑いながら
おっさん達が笑い合う。


「待て待て。我は源氏など目にもくれておらぬわ」

「さすが清盛殿。おっしゃる事が違われますな!」


どっ!
再びまた笑いが起こった。
…どこが面白いのかまったく分からん…


「ところで知盛殿と重衡殿は、これからの目標といったものはおありですかな?」


ふと話題が変えられた。
そうだ、よく見れば主役の座に座ってるのは、他でもないあの知盛さんだってばよ!
しかもその隣りには、知盛さんとまったく同じ顔をした人も座ってる。
ドッペルゲンガーか何かですか…?


「目標…そうですね、兄上は?」


ドッペルゲンガーが話題を振ると
知盛さんはふふっと物腰柔らかに笑って答えた。
と、知盛さんが微笑むなんて!
いつもだったら絶対、アクビの一つでもかまして「めんどくさい」とか何とか言う癖に!

て、天変地異が起こっちまう…!


「…私は父上を補佐し、これからも平家一族の為に生きていきたいと思っています」


えええええええええ!?
一人称が俺じゃなくてわたくし?!
おおおおかしい。絶対に変だよ…!

知盛が意外なことを発すると
辺りの人達がざわめいた。

「さすが知盛殿!」

「やはりおっしゃられる事が違いますな!」

「兄の重盛殿もおられる事ですし。これは今後の平家繁栄がますます期待出来ますな!」


なんて、みんな嬉しそう。


「そういう重衡、お前はどうなんだ…」

「私も兄上と同じです。ですが私は、出来れば私自身で誰かを好きになってみたいと思っています」


ドッペルゲンガーがそんな事を言うから、
喜んでいた人達は一変して
どよどよとどよめき出した。
爆弾発言だよ!


「ほう、重衡殿は恋がしたいと仰せか」

「ええ。政の許婚等ではなく、私自身で相手を見つけたいと思っております」

「おお!」


どよどよどよ。
またどよめきが大きくなった。
この時代の、しかも平家の跡取り候補がそんなこと言ったら、誰だって驚くのは当たり前ですよね…

でもそんなどよめきを静めたのは
清盛さんだった。


「皆の者、静かにせい」

「……」


ぴたり、と全員静まる。
さすが。すごい威圧感だコレ…。


「今日は知盛と重衡の元服の為の宴ぞ?好きにやらせてやって欲しい」

そう言って、
主役の座に座る二人をチラリと見つめ
すぐに視線を大衆(貴族)へと戻した。


「それに我は、一門の中から一人くらいは、重衡のような人物が出ても良いと思っておる。息子一人が凡人を嫁に貰ったとて、この平家にどれだけの影響が出るというのか。否、影響など一切生じまい。そんなことで、我が平家は揺るぎはせぬ」


淡々と喋った後、
清盛さんはドッペルゲンガーに向かってずかずかと歩き出した。


「重衡、好きな女子が出来たら逸早く我に知らせるのだぞ?」

「はい父上」

「よし。では皆、宴を再開しようぞ!」


満足そうに微笑むと
杯をもって清盛さんが叫んだ。
続けて重臣の人達や貴族の人達も、おおー!!と大きな歓声をあげた。


「清盛殿万歳!」

「知盛殿万歳!」

「重衡殿万歳!」


皆が皆、
平家に酔っているような気さえした。
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