第三章

□番外編 認めたくない事実
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番外編 箱入りむすめのススメ

認めたくない事実:徳子




認めたくない。
認めたくはない。

だってお兄様、あなたは私のお兄様でしょう?


私が幼い頃、
「大きくなったら兄上のお嫁さんになる」と口にした事があるけれど

そのとき父上は笑って
「それは良い」と言って下さった。
兄上もまた、優しく微笑んで頷いてくれたじゃない。


それなのに、
どうして今は私をかばって下さらないの?


徳子は嫌です。

知盛兄上、
あなた以外の男性のもとへ嫁ぐなんて嫌だわ、絶対に…!


好きなんだもの、兄上が。
小さい頃から大好きです。


重盛兄上は明るいけれど
本妻の他にいくらでも女の人がいるし、
重衡兄上は優しいけれどそれだけで、
勉学やら何やらに励まれていて、私に構って下さるほどお暇じゃない。
従兄弟の惟盛や敦盛はまだまだ子供。


知盛兄上だけが
私をきちんと見て下さった。

天気が良い日は縁側に寝転んで、
一日中ひなたぼっこ。

私が、屋敷にばかり居るのは嫌だとダダをこねると
少しだけ面倒くさそうに欠伸をして。
それでも涼しくなる頃には、
私を町に連れていって下された。

色んなものを買って下さって、
今でもまだ、それら全部が私の宝物だということ、きっと知盛兄上は知らないんだわ。


12の歳になった頃には、
「早くこれが似合う女性になるように」と、
白いかんざしを頂いた。


嬉しくて嬉しくて、
その日一日中、それを付けて屋敷を走りまわっていたら
あっけなく壊してしまって、散々泣いたものだっけ。

ぎゃんぎゃんと泣きわめく私を見かねた兄上が、夕刻にもう一度同じようなかんざしを買ってきてくれた時には
もう既に、私は兄上が好きなのだと気付いていた。


大好きなの。
知盛兄上の全部。
口先では意地悪ばかりを言うけれど、本当はすごく優しいこと、きちんとやり遂げること、私は知っています。

だからこそ好き。



それなのに…



「徳子、天皇の元へ嫁ぎなさい」


突然言われた父上の言葉。
正直、理解が出来なかった。
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