第四章

□無くしたものは何?
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箱入りむすめのススメ
番外編 無くしたものは何?
for 知盛






不可解でしかなかった。
知盛のいう言葉はいつも勝手で、理解しきれない事だらけだった。

何を考えてるのか分からないし、
いつもいつも
私はあなたに振り回されていた。


幾度となく恋に落ちて

そして離れ。
また恋に落ちる。

何度も何度も繰り返して。
同じ過ちを重ねた。


その度に私は弱くなる。

それに比例して、
あなたへの想いも、揺らいでしまいそうになる。




「―…」


名前を呼ばれて振り返れば
そこには将臣くんが居て。
一瞬、知盛と被って見えた。


「将臣くん・・」


表情に表れていたのだろうか。
彼は自分の長い指で、スッと眉間をなぞった。


「また、皺寄ってる」

「あ・・・、」


気が付いたら、ここ最近はいつも恐い顔をしているらしい。

そんな私に
将臣くんが表情を歪ませた。



「…もう、気にすんなよ」


呪文のように唱える言葉。
この言葉を言われたのは、これで何度になるだろう。




「…気にしないなんて出来ないよ」


私は頑に、首を左右に振った。




「私、諦めるなんて出来ない…」


そう。
悲しいくらいに、あなたで無ければダメだから。



その言葉を反動に、
私の体は将臣くんの腕の中に収まった。



「もう言うな…。聞きたくない」

「じゃあ…聞かなければ?」


今の私はあまりにも弱すぎて。

頼りたくないのに、
頼ってしまいそうになる。

捕まりたくないのに、
誰かを支えにして
捕まりたくなってしまう。


将臣くんを見ないようにして、
わざと強がって腕を張った。
今の私には、
まっすぐ知盛しか見えていないんだと
そう、主張したかった。



「…離して」


それでも距離は離れない。

毅然として向かい合ったまま、
将臣くんは言った。




「俺がお前を守ってやるから…」


その言葉に、
張ったままの腕から、力が緩んだ。






"―――俺がお前を守ってやる"



そんな言葉・・・
そんな言葉、軽々しくに口にしないでよ・・





どうせ守れないのなら…



「始めっからそんな言葉、口にしないでよ…!!」


八つ当たりを込めて
将臣くんの胸を叩いた。

ムシャクシャする。
叩きたい、壊したい、何もかも。

同じ言葉を口にして
私の元から去っていったあの人みたいに。


私が手に入れたかった未来は
こんなハズじゃなかったのに…!


「うっ…うわああああっ!!」


衝動。
目の前にある将臣くんの着物を掴んで泣きじゃくる。

欲しかったのはこれじゃない。
こんな結末が欲しかった訳じゃない。


「ああああああっ!!!」

草木が揺れる程に泣きわめく。
辛すぎて、どうすることも出来ない私は
一体この先、
どうすればいいのだろう。



「知盛…知盛っ!!!」


何故、目の前にいるのが知盛じゃなくて将臣くんなのか。

どうして私は
知盛でなければダメなのか。


全てのものから逃げ出すようにして泣いた。


「……」


将臣くんは私の肩を掴んだまま、黙ってそれを聞いていた。

私の角度から
将臣くんの表情は見えない。


でも、そんな将臣くんの表情すら
確かめようと思えなかった。

ただひたすらに、
泣いて腫らした




運命だと思ってたのに。

私は少し、
夢を見すぎていたのかな?


きっと知盛だって
いつまで経っても、
同じ気持ちだと思ってた。
同じように、
好きでいてくれるんじゃないか…って、そんな気がしてた。


甘すぎたのかなぁ、私は。

なんだかとっても、馬鹿みたい。



月がない新月は

「お前に逢いたくなるんだ…」なんて。

嘘ばっかり。



だったらどうして今ここに

あなたが居ないのか教えてよ。

二度と私を泣かせたりしないって
約束したあの日に戻ってよ。



「うあああ…っ!」



泣き叫ぶ声で悲痛に耐えて。


私は今日もあなたを想う。


何年経っても変わらぬ想いを
胸に抱いて…。




―番外編 おしまい―

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