第四章

□Vol.4 平泉ってどんなとこ
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ブルルルッ・・


「どう、どう」



馬の手綱を引かれながら、
市で賑わう町の中に、一人の綺麗な青年が降り立った。



「これが市か」


「泰衡さま、お気に召したものがございましたら、何なりとお申し付け下さいませ」




黒い長髪に、切れ長の瞳。
外見からみても、大層頭のキレそうな青年。

その青年と付き人が賑わう町中に現れた途端、
町はよりいっそう、賑やかさを増した。



ざわわっ!


「っおい、あれ!あのお方は泰衡さまじゃねえか!?」

「藤原秀衡さまのご子息、泰衡さまか・・っ!」

「おっ俺初めてお目にかかったっ」

「そりゃそうだ。兄の国衡さまと違って、泰衡さまは滅多なことでは屋敷の外へ出られない。
だから泰衡さまのお顔が分かるのは、ごく僅かだって話だよ」

「何にせよ、泰衡さまが目の前におられるんだ!」

「おお!泰衡さま!!」




泰衡の存在に気付いた町の人々は
泰衡と付き人の周りにドッと集まり始める。



「あぁ泰衡さま泰衡さま!」

「いまの暮らしがあるのは、皆国衡さまや泰衡さまのおかげですだ!
これからも何卒、何卒、よろしくおねげえいたします!!」

「泰衡さまぁ!!」






「・・・・・」



泰衡は一瞬目を細め、(これが私の国の民か・・・)と感慨深く思っていた。




「どうしました泰衡さま。市をご覧にならないと」


付き人が泰衡の顔を覗き込むと、
ふるふると顔を左右に振り、馬の手綱を握り返した。



「そうであったな」


ブルルンブルルンと鳴きながら
馬はまた、泰衡を乗せて歩き出した。






「市というものは、何て賑やかで活気に満ち溢れた所なんでしょうねぇ、泰衡さま」



泰衡の馬を引きながら、付き人は口元を綻ばせた。
その言葉に、
泰衡も表情こそ変えはしないが
少しだけ嬉しそうな声色で、返事を返した。




「民が生き生きしている国は国も生き生きとする。
それもこれも皆、父上が築いてくれた土台があるお陰だ」



それを聞くと、
付き人はより一層、にっこりと微笑んだ。




「まこと、そうでございますね」




よく晴れた秋の日のことだった。
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