第三章

□Vol.17
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それからも知盛の怪我が良くなることは無かった。


箱入りむすめのススメ3
 〜広がる波紋〜



弁慶さんやヒノエ君達と別れて、
もう何日経っただろう。

一向に良くならない知盛の左足の怪我は、日に日に悪くなる一方だった。


「知盛…起きれる?」

「…ああ」


傷口から来る熱で、
知盛は皆と別れたあの日から
ずっと寝たきりのまま。

そっと手を差し伸べて体を起こすのを手伝う。


「はい、水だよ」

「……」


竹筒で汲んできた水をそっと飲ませてやる。
喉仏が上下し、
知盛の体へ流れていく所を確認した。


「はい。じゃあまた横になって…」

「ああ…」


空家を見つけて住み始めた私達。
左足が不自由では
どこかへ出掛けることも困難で、
ましてや
京へ帰るだなんて考えられなかった。

古びた藁が枕代わり。
あの、天下の平知盛が
藁で出来た枕を使うことになるなんて。
一体誰が想像した事だろう。


「藁、痛くない?」


ちょっと笑いを含んでそう問うと


「ああ、悪くないな…」

なんて。
知盛も皮肉を込めて笑い返した。


…幸せ。
知盛が怪我をしたことも、動けないことも不幸な筈なのに。

どうしてか私は幸せだった。

それは、いつか終わりが来るかもしれない、限られた時間の中の幸せだったからかもしれない。


知盛と終始一緒にいられる。
これ以上の幸せを、私は望まなかった。
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