第三章

□Vol.16
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その少年は突然現れた。


白い髪は神聖で、
淡い群青色を帯びている。


少年は私に問いかけた。



「敦盛、あなたは神子が好き?」


私はゆっくり首を振る。
勿論、空と地に向かって上下に。



すると、少年は再び問いかける。



「じゃあ…あなたの一番は誰?神子?」



その言葉に
今度はゆっくりと否定を込めて首を振った。



「いいえ。私の一番は…私が一番好きな者は まるこ」




少年の瞳が揺れる。



「そう…。」


金色に輝く瞳に雲がかかる。


「じゃあ…」


小さく開けられた口から
はっきりと一言、呟かれた。



「一番いらないものは まるこだね」





箱入りむすめのススメ3
 〜化膿するキズ1つ〜





「夜…明けたね」

「ああ…」


高い窓から日差しが差してる。
私と知盛はとても優しい気持ちで、お互いを抱き締め合っていた。


「知盛」

「…ん?」

「せっかくの時間が勿体無いから、出掛けよう」


ようやく会えたから。
一緒に居る時間を無駄にしたくなかった。


「分かった…」


そう言って
目を細めて髪を一撫でする。
すす、と指がその間を通り、まっすぐ私の頬へ降りてきた。


「ちゃんと…居るな」

「うん…」


もう離れない。
誓いを込めて、キスをした。




「で、どこ行く?熊野で有名な処ってどこっ」


あの後、支度をした私達は
昨日泊まった宿を出発して、次なる地へと歩き出していた。


「そう焦るな…。まずは山を降りるか」

「おっけ〜」


ふと握られる掌を、自然に握り返すと
ふいに目頭が熱くなる。

いつかもあった。
こうやって、2人手を繋いで歩いた事。

敦盛さんを探して家を飛び出した私を、
知盛が探しに来てくれた帰り道。

夕日に並んだ長い影と
知盛の大きな掌。

あの時は、
こんなに遠回りするなんて思ってもみなかった―…


「…おい」


ふいに顔を覗き込まれる。


「あっ。な、何?」

「ぼうっとするなよ…。危ないだろう…」


ぐいと引かれて誘導される。
慌てて意識を元へと戻す。

そんな私に
知盛は首を傾げた。


「…またどこかへ行こうと、企んでいたのか…?」

「ち、ちがうよ!もうどこへも行かないっ」


また不安にさせてしまった。
大きく首を横に振って
知盛の顔を見上げた。


「さ、行こ!私、知盛と色んな所回ってみたいよ」


もう行かない。
どこへも行かない。
だから知盛も離れていかないで。

離れ離れになるのはもう嫌だ。


見上げ先の知盛も
同じ事を思ったようで、
フッと苦笑いのような、ちょっと切ないような笑みを漏らした。


「ああ…。ずっと一緒、だ…」
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