第三章

□Vol.15
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重盛さんが現れて、
翌日のことだった。

知盛が熊野へ行こうと言い出したのは――。





箱入りむすめのススメ3
 〜運命は巡り合わせて、何度でも〜





「えっ熊野に行くの?どうしてまた??」


「いいから…早く支度をしろ」



珍しく朝早くから起きたと思ったら、
すぐにそんな事を言われた。

この部屋に連れて来られて初めて知盛の口から外へ出ようという言葉が出てきたから、
そりゃあもう驚き桃の木ですよ…!
槍でも降るんじゃないかな・・・?!



とりあえず、
急いで着物を纏って知盛を追いかける。







「熊野って、あの熊野だよね?」



長旅になるかなぁと思って、
ぼろっちい履物を履こうとしていたら
知盛に「これも持っていけ」と
あの日貰った、綺麗な履物を手渡された。





「あ、これって…」


女郎屋で草履を無くしたと思ったときに、
知盛が買ってくれた履物だ・・。
桃色やら朱色やら、とにかく綺麗で高価そうな履物。
確かこれを買いに行ったのは真夜中で、
知盛が店主を無理やり叩き起こして購入したっていう、ある意味思いで深いシナモノなのですよ・・





「えーっ旅するのにこんな綺麗な履物持ってくんですか?
せっかく綺麗なのに汚れちゃうし、勿体無い・・・」


「・・・・使われる日の無い事の方がよっぽど勿体無いと思うがな・・・
クッ・・・まぁ良い。つべこべ言わず持っていけ・・」


「えーっ!」



確かに使わないバスケシューズほど勿体無いものは無いと思うんだ!(スラムダ○ク、靴屋のおやじの台詞より抜粋してみたよっバチコーン☆)(しなくて良い)


・・・・・。
もしかして、これから特別な事が起こるとでも言うんですかね?
それなら持っていこうって気にもなるんだけど・・・
まぁ知盛がブツクサ言ってねぇでとっとと風呂敷に包めやこの野郎!!みたいな事おっしゃったので、
とりあえず風呂敷に綺麗な履物を包んでみた。


それにしても、知盛って本当に何考えてるかよくわっかんないなぁ…





「おい・・・支度は出来たんだろう・・・?行くぞ・・・」

「はいはいっ今出ますよっと!」



よっこらせ、と荷物を包んだ重たい風呂敷を持ち上げて知盛の後を追いかけたんだけど

だけど・・・


ビックリした!



「えっ知盛さん?!お荷物それだけでっか!!?」


ありえないありえないありえないYO−!!

なんと知盛という人は
お弁当を包む巾着みたいな小さな荷物、たった一つしか手に持っていなかったのであります。

私はこんなに特大荷物だと言うのに!

あなたはポケットに財布突っ込んでぷらぷらっと出掛けられる現代男子ですかゴルァァァ!いつかスリに盗られる恐れがあるから気をつけないと!!危ない危ない!!



「知盛危ない・・・知盛危ない・・・」


ブツブツ呟く私をよそに


「・・・?・・・子供のお守りは俺には出来ぬ・・・。先に行く・・・」


知盛さんはさっさか先を歩いていってしまう。


「あっ誰が子供だって?!待って下さい知盛せんせ〜!」



その後を、急いで私も追いかけた。





空は快晴。
気持ちの良い天気。

私と知盛の
初めての2人きり旅が始まる











「わーい熊野熊野〜!楽しみだなー!」


るんるん気分で先を歩く私の後から、
知盛がゆっくり後を追うようにして歩く。


「…待て」


「ん?」


「まるこ・・・お前・・、熊野に行った事などあったか・・・・?」



あ、そっか。
知盛は知らないんだ!
弁慶さんに連れられて、私が熊野に行ったこと…!

といっても、
あれは弁慶さんのご好意による『傷心旅行』だったんですがね(私の)

しかも傷心の原因は
今隣りで歩いてる知盛さんっていう…。

し、しーん…。





「初耳だな・・・。お前が京の外へ出たことがあったとは・・」


「え、へへ・・・」


ポリポリと鼻をかく。


「・・・・で?どこのどいつと行ったんだ・・?まさかお前一人、という事は無かろう・・」



ギクッ

いつもは他人の事などどーでも良さそうに
「クッ・・・」「ほぅ・・・」「そうか・・・」で終わらせる癖にさ!
今日に限って突っ込んでくるとはこれいかに!
知盛って本当、野生の勘的なものが働くよなぁ・・


なんてやや関心しながら、
慌てて取り繕う。




「え、えーとですね、そ、それは。あ〜」



言葉を濁す私を
怪訝そうな顔で見つめるのは知盛の眼差し。

クッ・・!蛇に睨まれた蛙状態・・!


ついに観念した私は口を開く



「べ、弁慶さんと行ってました!」


「・・・・・・・弁慶?」



思い切って暴露したのに
弁慶?誰それ。って顔をする知盛。


ちょっ・・・・!
弁慶さんの知名度って、そんなに低かったっけ…!?

それとも知盛が忘れてるだけ・・!?

あれー!?
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