第三章

□番外編 雨の中で
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箱入りむすめのススメ
 番外編 雨の中で




今日は疲れたからと、早々に床に着いたのだけれど
瞳を閉じる頃には
外は雨が降っていた。



「……」


雨音を子守唄代わりにしてようやく眠りについたのは、
布団にもぐり込んでから数十分後の事だった。


今日は意外と寝付きが悪かったなぁ…といつもの自分と比べながら、深く眠りについていく。

雨の音は、
母親の胎内にいる時の音に似ているんだと、いつか誰かに聞いた気がする。

でもそれさえ確かめることも出来ずに
ついに完全なる睡眠へと辿り着いた。





「ここは…」


きっと夢の中。
足元が白く霞んでおぼつかない。


「あれ、誰かいる……」


ふと視線を前へ向ければ
男の人がうなだれながら、椅子に腰をかけていた。
蒼い髪のその人。


興味本意で近付くと
その人はものすごい勢いで立ち上がり、私をきつく抱き締めた。


「………!!!」


何か喋ってる。
なのに、どうしてか声が聞こえない。

必死に何かを訴えようとして、その人は私に叫びに近い口調で語りかけているのだけれど
私にはそれが届かないみたい。


きっと私の声も、
この目の前の男の人には聞こえてないんだろうな。

どこか遠くの方で
そんなことを思った。


抱き締められて、頬を撫でられる。
物凄く愛しそうに見つめられて、正直私は戸惑った。

あなたは誰…?
どうしてそんなに切なそうな瞳で私を見るの?



「男の人なのに、綺麗な顔してる」


ふとその蒼髪に触れてみた。
思っていたより柔らかくて、サラサラと手の中で揺れた。


と、そのとき。
頬を撫でるのを止めたその人の瞳から、
突然いくつもの涙が流れてきた。


「泣いてるの…?」

「………」


その人は語らない。
ただ切なさの入り混じったような瞳で、私を見つめてる。

泣いてる。
蒼い髪が綺麗なあなた。

泣かないで。
私まで悲しくなるから…。



「―――……」

「なに…?聞こえないよ…」

「――…!」

「だから、聞こえないんだって」


言葉が聞けない事が
もどかしい。

そう思った瞬間、
ぎゅっと強く抱き締められて
そしてその次視線を上げた時には、もう既にその人は居なくなっていた。



『……行くな!……』



最後にどこか遠くの方で
小さく、そんな言葉が聞こえたような気がした。



「泣いてた、あの人…」


残されたのは私一人。
いよいよ辺りが白くなって、そろそろ夢の終わりが訪れる事を告げている。



「前にも見た気がする。同じような白い、夢……」


でもあの時は、さっきの人じゃなかったよ。
あの時は、誰の夢だったんだっけ…?
あの時は………。




「夢、か……」


辺りが白い霧で覆われると共に
私は夢から覚醒した。
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