第三章

□Vol.4
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「望美、どうした?」

「え?あっ…将臣くん…」

「ぼーっとして。悩みごとか?」

「ううん、何でもないよ」



箱入りむすめのススメ3
 〜苦手克服大作戦〜




「そうか?あんまりぼーっとすんなよ。あいつ、結構あててくるから」


そう言って、黒板を文字で埋め尽してる先生を指差した。
授業を聞いていない生徒がいると、すぐに指名してくると評判の先生だ。


「うん、分かってる」


隣りの席の将臣くんに頷いてみせた。

…私、本当は悩んでる。

だって、おかしいよね。
ちゃんと時空跳躍したはずなのに、なんで現世に戻ってきちゃってるのか。
龍神の力が足りなかったとか?


「え〜ではこの問題はぁ…出席番号15番、問いてみろー」


ようやくチョークを置いて振り返ったが、該当する生徒は居なかった。


「どうした15番。居ないのかぁ?」


顔をしかめた先生に、
親切に教えてあげたのは前の席の女の子。


「先生ぇ、その子、一週間前からずっと休んでますよ」

「なに、一週間前から?」

「たぶん、インフルエンザか何かにかかったんじゃないかと」

「ふーむ。じゃあ次の番号の者、前へ〜」


淡々と進んでいく授業。
頬杖をついたまま、窓越しに
ぽっかり空いてる後ろの席を見つめた。

この席には、本来ならまるこが座っている筈だった。

最後にまるこを見たのは、
あの壇之浦の船の上。


『望美のこと許せない』

『望美なんかもう友達じゃない』

『さよなら、望美』


そう言ってまるこは海へと落ちていった。
私に、さよならも言わせずに。


「っ……」

思い出すだけで喉の奥が痛くなって、とても悲しい気持ちになる。

ごめんねまるこ。
私、まるこを悲しませるつもりなんてなかったのに…。


と、そのとき。


「望美、やっぱお前おかしいぞ?保健室、いくか?」

「え?」


虚ろな私に気付いたのか、
将臣くんが心配そうに話しかけてきた。


「う、ううん。大丈夫だから」


小声で返事をすると、
さっきより険しい顔をして
将臣くんが立ち上がった。


「先生、こいつ具合悪いみたいなんで、保健室に連れてっていいですか?」


チョークを走らせる手をとめて、先生は振り返って私を見るなり


「ああ、確かに顔色悪いな。よし有川、連れてってやれ」

「はい」


あれよあれよという間に、私は保健室いき決定となった。
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