ブック4
□さよなら
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『佐助を、解雇…しろ‥?』
塵ひとつない広い座敷に、奥州に位置しながら京都並みの庭園を作り上げていた政宗の屋敷。
伊達政宗と真田幸村、たった二人きりで始まった合議の末に持ち出された条件は予想のしていなかったものだった
『そうだ。』
『‥っ、納得、ならん!!』
思わず我を忘れて叫ぶ。襖ごしに隣の部屋から鍔の鳴る音が聞こえたが、政宗の口笛が響くとそれは消えた。
『‥』
『…政宗殿には、感謝しておる。我ら武田への破格の待遇、願ってもない事!しかし、何故、条件の中に佐助の事がっ‥?!』
『納得出来ねぇか?』
『出来ぬ!!』
『‥。』
側に置いてあった煙管を口元に寄せ、吸うとゆっくりと煙を吐き出す。
やっぱりか、と政宗はいうとじろりと幸村を見上げた
『理由はある。二つな』
『理由?』
『そうだ。一つ、あいつは優秀すぎる』
『?!』
ぎょっとした。
意味が解らず、それでも佐助の確信の一部を指摘された様な理由にわけも分からず政宗の突き出された指を見た
『ゆ、優秀‥すぎる…?』
『出来すぎだって事だな。おまけに猿って忍は修羅が人の仮面をつけて生きてる部類だ。何をするか分からねぇ怖さがある』
『っ!!』
『Ah,Ah.お前の言いたい事はわかる。だがもうちょっと続けさせろ、ok?』
『佐助は、只の人殺しではごさらん!!』
『…聞いちゃいねーし‥勘違いすんな、真田幸村。修羅だなんて、俺もお前も持ってる一部だろーが』
肩を竦めて呆れたようにしてみせると、政宗は持っていた煙管を引っ繰り返して灰を落とす。
『確かに、味方になればこれ以上ない頼もしい忍だろうな‥But、俺の言うもう一つの理由が、猿が辞めて貰う一番の理由になってるんだよ』
『‥』
言ってみろ、といわんばかりの挑発的な幸村の顔に政宗も乗るかの様に口の端を釣り上げる。
しかし、次の瞬間には感情を切り捨てた冷たい瞳で言った
『あいつは、お前にしか忠誠を誓わねえ‥それが、二つ目の理由だ』
「…」
「旦那」
『尻尾を振ってくれない犬は、今の俺達にはいらないんだよ。ましてや、牙の鋭いのは尚更な』
「…佐助、お前の‥話だった。政宗殿の、同盟の条件の一つは」
「いいんだ旦那。もし俺様の事なら、切り捨てて構わないよ」
「良くない!政宗殿は、勘違いしておられる!!お前は修羅等ではない!なのにっ‥」
「ん?もしかして、俺様に死ねって?」
「ち、違う!優秀すぎるから、佐助を解雇しろとっ‥」
「んなわけないじゃん!俺様みたいに優秀すぎる忍がいらないなんて、嘘嘘。
それはね、独眼竜が旦那を手に入れるために撒いた罠だよ。」
「嘘?」
今度は驚きに目を見開く。佐助は笑う。だが、そろそろ行かねばばならない
肌に感じる気配、胸騒ぎが、濃くなった
(‥来る。)
伸び上がりざま佐助の腰から出された苦無が、部屋へと入ってきた相手の喉へと吸い込まれる。
そのまま一瞬の内に交差し合った佐助と奥州の忍は、互いの頬と喉を自らの武器により傷つけさせたが、致命傷はどちらかは一目瞭然であった
「?!!」
「‥早いな。もう少し、旦那の傍にいられると思っていたのに」
吹き出すような血が雨の如く流れ、佐助を真っ赤にさせる。
呆然とする幸村に、佐助は悲しそうに微笑んだ
「………佐助……」
「…。」
「一体何なのだ……何故‥奥州の忍が‥‥佐助……答えろ……佐助!!」