ブック2

□DO・MI・NO!!
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「ん……?」

ふと、肌寒さを覚えて目を覚ます。
夕焼け空の広がりを見てあのまま寝てしまったと気付き、佐助は気怠げに体を起こした


「あちゃ‥寝ちゃったのか」

セーターのポケットから携帯を取出し、画面をみる。そこに入っていた不在着信にぎょっとし、慌ててボタンを操作した

(やべ、もしかして指令?!)

けれども、表示されたのは先程までいた友人からの着信で、やれやれとため息をこぼす。
それでも珍しくかけてきた事に佐助は通話ボタンを押して耳に押しあてた


「もしもし、親ちゃん?どうしたの?」

『おお、猿飛!おめぇまだ学校か?』

「うん、そうだけど‥何?」

『そうか。なら良い話をしてやるよ』

「良い話?」

立ち上がり階段を降りながら話を聞く。
誰もいないのか、校内は死んだように静かだった


『人捜しだ。おめぇのいる辺りで女の子が行方不明になったんだとよ。ネットの人捜しにはありえない額で表示してる』

「ええ?!」

『面倒臭いって声出すなよ、しかも行方不明の女の子はうちの生徒だぜ』

「んー‥額は?」

『二万』

「もうちょい」


『しょうがねぇな。二万五千だ』

「のった!」

教室の机の上に置いておいた鞄を引ったくり、佐助はわざと声を上ずかせる。
元親から舌打ちが聞こえたが気にせず、肩にかけるとメモ帳を取り出した


『ったく、しょうがねぇな。そのかわり見つけろよ』

「オッケーオッケー。そんで、どんな子?」

『ああ、写真があるんだがお前のは転送できないんだったな‥後でメール送付するが、髪は茶髪で後ろで一つにしてだな‥』

「うん、うん―‥!」



その時、教室内に小さな物音が生まれ今まで気づかなった気配が動いた事に佐助は目を走らす。


(黒板がある手前の教壇―‥誰かがいる。)


「…親ちゃん、それで?」

隠れている相手に気付かれないように進み、佐助はゆっくりと近づく。


『おう、それでこれがやたらと―‥』

(今!)


一瞬の動きで教壇に手をつき身軽に飛び越すと、そのまま手を伸ばし相手の首を掴んだ


「っひゃう!」


「?!」


手にしていたメモ帳を思わず零す。

そこには、何故か自分達の高校の女子制服を半ば脱ぎかけた、泣いている女の子がいたからだ。


「……え、ええーと?」

『猿飛?』

「んやぁっ!!!」

「うわっ!!」

思わぬこの状況に、停止した佐助に突然相手が暴れだす。
無茶苦茶な動きに驚いて手を放すと、相手は強い眼差しでこちらを睨み付けた


「は、破廉恥な輩共め!!!私が成敗してくれるわ!」


「はぁっ?!ちょ、やめっ、うわっ!」


拳を繰り出し殴りかかる少女に佐助は困惑する。


『おいっ、猿飛?!どうした、誰かいるのか!』

「ち、親ちゃん、ちょ、何か分からないけど教室に女の子が―‥」


首と肩で支えていた携帯へと今の状況を話そうとしたが、今度こそ佐助は慣れた空気が近づいてくるのを感じ身をひきしめた
再び繰り出された拳を手のひらで受けとめ、反対の手で今度は口を塞ぐ

「?!」


そのまま押し入るように教壇の中へと入ると、相手の眼差しを咎めるかのように見つめた


「‥厄介だね。あんた、追われているよ」

「‥っ!」

びくりと肩が震え、少女に明らかな怯えの色が浮かぶ。
ああ、とそこでようやく佐助は納得をした


「大丈夫。俺様はね、そいつらの仲間じゃない。だから、静かにしてて。ね?」


にっこりとなるべく優しさに満ちた笑みで相手に微笑みかける。
足音がかなり複数で、女の子を庇いつつやるのは骨が折れる。なるべくならやり過ごしたいと思ったからだ


再び暴れ出すか心配したが、少女は意外にも目を見開き、憑き物が落ちたかのように大人しくなった


「そうそう、良い子‥じっとしてなよ」


安心して佐助は抱え込むように抱きなおすと、教室の外を窺う。
そこには複数の男が廊下を行き来しており、明らかに目の前の少女を捜していた

(…明らかにやーらしいこと目的だよなぁ。こんな子一人相手に、ああ‥ムカつく)


『おいっ、猿!返事しろ、生きてんのかオメーは』

「!」

その時、携帯から元親の大音量が響き、佐助は舌をだす。
すっかり忘れていた


「〜悪い親ちゃん、今取り込んでるから‥」

「…さ、すけ」

「?」


腕の中にいた少女が呟く。



「其方、佐助‥か?」


「え?」


今度こそその少女に驚いて、佐助は凝視した


「アンタ‥何で、俺の名前を‥」


「‥あ、う…あ…」

「っ?!」


ゆっくりと振り返ったその顔が、涙で歪む。
驚くままに、白い手が頬に触れ愛おしげに撫でられるのをただ受けとめた


「‥、っ‥一体」


「佐助ぇっ!!」


いきなり飛び付いたかと思うと、首に腕を絡めて抱きしめる。
咄嗟に反応出来ず、頭部から鈍い音がした


「佐助、佐助、さ、すけぇ‥」


「あ、アンタねぇ!!いきなり何っ‥」


「ここだ!!いたぞ!」


乱雑な足音が走り、教室に複数の男達が入り込む。
思わず舌打ちをした佐助に、少女がまた怯えたように震えた


「‥あ、す、すまぬ‥」


「…ん、ああ‥」


肩を落としうなだれる少女を観察する


(スパイじゃなさそうだな…って、肩、白いなぁ‥)


「待ってて」


そっと肩を直して崩れていた制服を直すと、今更気付いたように慌ててスカートを押さえる。
思わず笑みを浮かべると佐助は携帯を持ち教壇から立ち上がった



「…親ちゃん?聞こえる?」

『あ゙あ゙!?猿飛、テメェこの俺を無視したたぁいい度胸だな!って聞いてんのか、コラ!』


「ごめんごめん。それでさ、もしかして行方不明の女の子って‐‥」

そう言ってから区切り、不安げな少女を見下ろした。


「可愛い?」


『…おう。とびっきりな』


「よかった」


そうして、通話を切るとそのまま携帯を少女へと渡す。

「わ!」


「あのさぁ、君それで電話して。119番に」

「へ?」


携帯を受け取り、疑問符を浮かべる相手に佐助は嬉しそうにいった



「急患ですよ。人数はこいつらと同じ、6ってね」




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