ブック5
□逢魔が時
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上田城の国境近くの山道。
道沿いまでを馬で走り、山を徒歩で歩いてきた。屋敷からここまで大体、二、三刻位かかっただろうか
けれども、同じ頃に出たと聞いていた佐助が、息一つ切らさずに先にいて思わず憧憬の眼差しを向けた
「佐助」
名を呼ばれ佐助がこちらを振り返る。
小高い丘に作られた草木の入り乱れた砦は偵察用のもので、自然に紛れ気付きにくい所にある。
他の忍でさえ見付けにくいここに来た幸村に佐助は目を丸くし、困った様に笑った
「驚いたね。もしかして、自力でここ見付けちゃったの?源次郎様」
「いや、兄上に教えて頂いた。新しい隠れ家を見てこいと某に言われてな」
「あ、そうだったんです?いやだねー、あの人。自分の弟君をこんな所に行かせるなんて」
「‥其方の主人だろ。そんな言い方をするな」
「ははは、分かってますって」
その返事に痛む胸を押さえ、気付かなかった振りをし近づく。
警戒中の為なるべく音を立てないよう隣に座ろうとした場所を、忍がさりげなく手で汚れを払い幸村がよそよそしく礼をいった。
「…ここは佐助が作ったのだろう?」
「んん、そうだよ。よく分かったね」
「この場所を見ていたら、お前と一緒に狩りを行った時を思い出してな」
「狩り?隠れるのとは全然逆なのに?」
「んん。佐助が狩りを案内してくれる時、皆と違う場所へ案内してくれるだろ」
「え、そなの?」
「うむ。でも、野兎や野鳥が多く出る。家臣達が放った獣とは違い取れないものだな」
幸村の言葉に沈黙する。変な事を言ってしまったかと不安になるが、次にはこちらを見て笑ったので内心安堵を洩らした
「…どしたのー、源次郎様。愚痴?愚痴なの?」
「狩りとは、獲物がいそうな所を探すのではなく獲物が何処に行くのかを考えなくてはならないのだな」
「……」
「それと同じで、偵察も相手がどこを行くかを考える、兄上にさりげなく告げてみよう。あ、狩りに誘ってくれてありがとな、佐助」
「……俺様こそ、感謝感激してますよ」
「?」
「その狩りで源次郎様、信之様に言われた鶴じゃなくて雉を獲ってきたでしょ。信玄様との会合用のお吸物の中身?助かったよ、信之の旦那が怒られずにすんだ」
「偶然だ、佐助。それにその事、誰にも言うなよ」
「お兄さんの事立ててるんだ?優しいなぁ」
「……真田の主君となる兄上を助けるのは当然だ」
「本当にそう思ってるって…俺様、源次郎様のそういう所好きよ」
「……やめろ、破廉恥忍。」
「えっ、何で?!……源次郎様?無視しないでよー」
「‥どうして」
「ん?何?」
「いや……」
(‥どうして、兄上の忍なのだろう)
幸村にも、勿論自らの忍はいる。一から見付けた者達ばかりで、大事な人材だ
それでも、いなくなったものを埋めるには至らない