□猿飛佐助という人
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「‥?」


頬に水滴が落ち、その冷たさに目が覚める。もう一度雫が頬に落ちたので、不思議に思い見上げてみれば何故かそこには全身びしょぬれになった幸村がいた。


「わっ?!って、ててて…」

「あ、佐助…!」

驚いて声を上げ、痛みに傷口を押さえる
慌てて幸村が丸薬をとりだし、佐助の口元までそれを運んだ


「えっ‥だ、旦那?」

「飲め、いいから」


「え、ちょっ、わっ‥!」


無理矢理口の中に入れられ、水を飲まされる。そのまま飲み込んだ佐助に眉を下げたままの幸村が聞いた


「平気か?痛まないか?」


「‥あ、ありがと‥大丈夫だよ……でも」


「‥どうした?やはり痛む所があるのではないか?」

「あ、いや…旦那、何時からここにいたの?」


「ついさっき。それがどうかしたか?」


「ん、その……忍が、看病なんかしてもらってカッコ悪いっていうより…有り得ないから、さ」

「………」


居心地が悪そうに布団の中で身をよじる佐助に、いつものように激昂せずに尋ねた。


「何故そんな事を言う」

「………?」


ちらりと幸村を見上げて、目をそらす。何故だか今日の主は冷たい。見た目ではなく幸村の雰囲気でそう思った


「…忍は使い捨ての道具だからだよ」

「…そんな悲しいことを、言うな…」

「何言ってんだか、当たり前の事じゃないか。旦那は、優しすぎるよ」

「っ…馬鹿者!!」


突然、幸村が叫ぶ。驚いて佐助は主を見た


「‥?」

「優しいのはお前の方だ!佐助、おぬしは何時もそうだった‥なのに、某は‥!」


肩を震わせ随分と後悔している様子の幸村に驚く

自分の寝ている合間に、何かあったのだろうか。
そう不安に思うと同時に、幸村が自分のことで何か気に病んでいる事に焦ってしまう


旦那がいるから、今この自分があるのだと佐助は思っているから



「‥旦那、あのね…」


「‥すまない。すまない、佐助。某のせいで‥」


「………もぅ…あ。」


ちゃり、と冷たい音と独特の金属音が鳴り伸ばされた佐助の手が幸村の首元にある六文銭に触れる。


「?」


「六文銭、まだついて…いるね。」


「‥?」


「良かった。旦那に死なれたら‥困るんだもの。」


「それは某も同じだ」


「……」


ごめん、と言って佐助が口を紡ぐ。幸村も黙り、少しの沈黙が降りる。


「―‥佐助、何か‥欲しいものはないか?」

「あのさ、‥なら、言ってもいい?」


「何だ?」



ふと気付いた様に不安げに尋ねる。そんな幸村をじっと見つめてから、佐助が言った


「‥‥捨てないで」

「‥」


悲しい。それ以上に冷たい境地にいる相手に、手を強く握り締める。
迷子になったようなか細い声に、愛しさにぎゅっと忍の手を握った


「旦那?」

「‥やっと言ってくれたな」

「え?」


「‥その、自分の気持ちを、だ」


「‥旦那、ちょークサイよ、そのせりふ」

「うっうるさいぞ!良いのだ、佐助が、初めて某に正直に言ってくれたんだ。某も、もう目を逸らさん」

「?」



「佐助‥某はそなたを何時も信頼している。だから、佐助も某を頼ってくれ」


「旦那、暖かい…」

「……っ、佐助…そなたも…暖かいぞ」

「照れちゃうね・・。」


知っている。猿飛佐助という忍を知っている。
自分が佐助を好きだということも

(でも今は、おやすみ)

眠りについた佐助を、じっと見つめて心の中で告げる。手の暖かさに、じわりと涙が滲んだ



痛い‥(汗)砂を吐ける内容をめざした

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