文
□※キスとスキ
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「……。」
今は着ているものは戦装束ではなく藍色をした小袖だ。
昼食を食べた後一人抜け出し、城の中にある裏庭の松―その地面の下に昔からあった小さな蔵へと、誰にも言わずに入った
小さい頃からの癖で、何か嫌な事があると幸村は何時もここに来ていた。こじんまりとしていて暗く湿った空間に落ち着きを覚えるからだ
それに、ここにいれば迎えに来て欲しい人物が来るのも理由の一つであった
「…佐助」
あれは誰だったのか。何故佐助と抱き合っていたのか。佐助の何なのか。何時から佐助の、恋人になったのだろうか
(何故もやもやとする‥!!佐助が、あの者が何だと……)
なぜか悔しさが込み上げ、涙が零れる。
慌てて着物の袖で涙を吹くと、もう一度小さく名前を呟いた。
「……佐助‥」
「―‥お呼びで?」
「!」
後ろから音もなく居間に入ってきたのは、戦装束のままの格好をした佐助だ
正に考え事をしていた相手の登場に驚く幸村に対し冷たく佐助は笑う。
その笑顔に何時も見るものとは違う何かを感じ、背筋が寒くなる気がした
「何、驚くフリをした所で何も出やしませんよ?」
「…お、主、誰だ」
咄嗟に、その言葉が出る。目の前にいる相手に確かに感じていた違和感は、幸村の言葉に反応したその顔で確信に変わった
走りだした体に戦装束の佐助はいきなり幸村の着物の裾を掴むと、地面へと引き倒しまたがる。予想だにしない態度に目を見開くと、佐助はふぅとあからさまなため息を吐いた
「あぁ‥幸村様、そんなに怯えないで?やっと見つけたのにさ…」
「‥貴様、なにものだ!佐助ではないな!?」
「嫌だなぁ、本物だよ、幸村様。」
「っ…?!ん!」
佐助の冷たい手甲に顔を掴まれ、顎を上げさせられる。古ぼけた天井を映す視界はすぐに端正な佐助の顔で埋まり、幸村の口を覆うように佐助の唇が降った
吸い付かれ、舌が歯列を這う。初めての事に幸村は動転し顔を左右に降るが相手はそれに合わせて動き、角度を変えて口を吸った
「ふ、ぅう…っ、んん…!」
息が出来ず苦しさで佐助の背を叩く。それでも忍は止めずに口内を蹂躙し続け、意識が朦朧とした頃にようやく解放された