□※キスとスキ
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「……旦那、今頃何してんのかな」


ぽつりと呟いた佐助を、一陣の風が通り過ぎる。ふわりと過ぎさった風は佐助の体についた匂いを運び、先程の事を思い出させた。


生臭い鉄の匂いと相手の放った精が交じった何とも艶めかしい様なそれ。
佐助は大げさなため息を吐いた





幸村には伝えていないが、三日前、上田城に間者がいる事が判明した。
佐助は即その人物を調べ上げ、捕まえたのだが、その人物の容姿に驚愕したのだ


見知った奉公の村娘の顔の下から、幸村と瓜二つの容姿。
皮膚一枚を隔てて現われたその顔に佐助は今朝から動揺していた


(‥あれが他人の空似なものか。あの娘はくの一だろうな…顔は薬か何かで旦那と瓜二つに造ったんだ。)


そこまで考えて佐助は嫌悪感から舌打ちする。
動揺したのは、その少女が佐助に自分を抱いて欲しいなどといったからだ


本心ではなく、忍の罠だと佐助は思った。
しかしそれでも動揺したのは、思いがけない言葉を少女が言ったからではなく、少女の体をした幸村が言ったように見えてしまったからだ


(俺様もまだ未熟だな…偽の旦那の破廉恥姿で動揺するなんて)


本人は決して誰の差し金かは口を割らなかったが、薬の扱いに長けた忍の一族が関わっているのは確実である。一体何処の里なのか、それを調べるため佐助は一人特別任務についていた


「あー…しんど。筧ちゃんだけでも十分な戦果を上げてくれるだろーに‥武田の大将も貪欲っつーか、忍使いが荒いというか‥」

「話を聞け。それに随分と気が乱れている、それでは他の気配に気付くのに遅れるぞ」

「‥分かってるよ。でも朝からかなりしんどかった事があったんだ」

「忍とは思えん愚昧な発言だな」


そういいつつも佐助の言う内容を薄々察知しているのか、珍しく若干の同情さえも含めて、才蔵が答える。

その変化に敏感に受け取った佐助はなぜか咄嗟に話していた


「ちがっ、やってないよ!?いくら旦那にそっくりな子だからって」

「下品な。俺は何も言ってない……今何と言った?」

「あ」


間の抜けた声に、才蔵から凄まじい程の殺気が膨れ上がった。

「‥殺す」


「わあぁっ、才蔵ー!!タンマタンマ!」


殺意を剥き出しに翻った才蔵に佐助は飛び上がって逃げた。


「才蔵、落ち着けって!!今のはただの冗談じゃん!」

「それで?」

「それで?ってー!それにさ、あの‥もうその子は始末したよ。可哀想だけどあの子も敵の間者だし何かした後じゃ遅いから」


「当たり前だ。今更言い訳か?」


才蔵の言葉にムッとしてしまうが、つい喋ってしまった以上は何もいえない。



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