ブック5
□6#しとしとと
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ひどく寝苦しい。
真夏の日の様な熱帯夜ではなく、雨と湿気で肌にまとわり付く様な不快感さがこの季節の夜にはある
雨が降ったせいもあり一日中屋敷にいて力は有り余っていた。夜になっても眠気は来ない。
(寝れない‥なぁ…‥)
「利、起きてんの?」
「!」
がばりと慌てて利家が寝たフリをする。
声の主はあのイタズラ小僧だ。まつも今は入浴中でいない為、あのわんぱく小僧を止める人物はいない
(寝たフリをして悪戯から逃れなければ。うぅっ、まつ…早く上がってくれ)
「あれ?寝てる?」
顔に大きな影がかかる。ぎし、と人の重みで畳が鳴いて緊張に胸が早鐘した
「ふーん。」
落ち着いた声。もしかして、と思っていると胸元が急に涼しくなった
(?)
怪訝に思うと冷たい、何かが胸の合間に当たる。それは段々と上に上がって左の鎖骨に触れると首元までやってきた
(???)
慶次がまた何かしているのだろう。だが触れてくるのは何だろう、しとしととしていてまるで今の季節の様だ。
そこまで考えていた利家の首、耳元をちゅうとそれが吸った
「!!」
小さな水音にようやくその正体を知る。触れてくるのは慶次の唇だ
(なっ、うそ、え!?)
訳が分からずただ混乱する利家の首を、唇が筋を辿り斜めに降りる
その感触に思わず声が洩れた
「んっ‥」
(げ!しまっ‥!)
止まる慶次の動きに狸寝入りがばれたと、青ざめる。覆いかぶさったのか、圧迫感が体に生まれるとポツリと声がした
「利」
名を呼ぶ。
利家の体が強ばる。
しかし慶次は一言、おやすみと言って上から退くと、部屋から立ち去っていった。
消えた気配に、利家は何時までも目をつぶったままだ
(……い、今のは、何だったのだ?)
呆然と慶次の行動を反芻する。また、ただの悪戯だったのだろうか?
「‥もし、そうなら質がわるぃ……」
まつと二人で引き取って以来慶次は分からない事ばかりする子供、だと思っていた
(ほおが熱い)
赤い顔に動揺してしまう。それは先程の悪戯よりも、慶次の雨のようにしっとりとした声のせいだったからだ
「……うー‥何なのだ、慶次‥」
甥の悪戯に、寝苦しい夜以上に悩まされ利家は深くため息を吐いた
そしてまつに突っ込まれる首の跡。