ブック3

□右へ行く者左へ逝く者
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「小十郎、小十郎!!」


屋敷内なら何処へいても聞こえる程の主人の呼び声に、縁側で一人将棋を指していた小十郎は碁盤から目を離す
こちらです、そう答える前に障子を開き現われた政宗につい苦笑をして出迎えた


「政宗様、如何いたしました?」

「Aa?小十朗、お前こそ何してんだ?」


小十郎の問いを聞かず政宗は首を傾げる。
一人縁側に座し相手もいない碁を並べている姿を不思議そうに見るが次の瞬間にはまぁいいかと、疑問を忘れて小十郎の隣に座りこみ、それよりもと手にしていた紙を相手に広げ見せ付けるように掲げた


「Hey,小十郎!これを見ろ、これを!」

「政宗様、はしたないですぞ。きちんとお座り下さい」

「堅いこと言うなよ、せっかくの楽しい話が台無しだぜ?」


「話‥ですか?」


(YES!!)

ようやく関心をこちらに向けた腹心に、こっそりと政宗は心の中でガッツポーズをする。

この腹心は戦の時は常に政宗の影の如く付き従っているが、実はそれ以外ではまっっったくと言っていい程側にいないのだ。
陣中では政宗の至らぬ所や出すぎた所存は諫言を寸分惜しむことなく進言し、戦場に出ればその背中を常に守っている


だがしかし、一度戦が終われば「政宗様、こたびもお見事でございました。では‥」と一言残してさっさと政宗の傍からいなくなってしまうのだ。



「寂しいじゃねぇか、コノ野郎‥」

腕を組んでポツリと呟く筆頭は、哀愁が漂い泣ける。奥州ではそう兵士達が噂しあい、こっそりと彼等を見守っているらしい

それはともかく政宗にとって、小十郎の今の態度は甚だ不満の要素であった


(小十郎は何も言わねぇ、でも必ず側に‘は’いる。But、それじゃあ俺は満足できねぇ‥)


あの時、小十郎が自分の帰る場所を尋ねてきて驚いたが、喜んだ。
この伊達家の家主である以上甘える事は出来ないが、誰かに心を許せるだけでも随分と違うのだ





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