ブック3

□花びらや舞いてかんざしふれる春
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「利〜ぃ、見つかったか?」


大きく口を開いて団子を入れると、一串丸ごと団子を抜いて咀嚼する。
久しぶりに京都へとやってきた自分の叔父は、先程からウンウンと唸っては往来を行き来していた。何でも、愛する妻にかんざしを送りたくてわざわざ来たという

茶屋の隣に位置するかんざし売りの前に陣取り必死に吟味をしていた


「ふぉひも、まひめだねぇ、んぐ…俺は、まつ姉ちゃんは利からくれたものなら何でも喜んでくれると思うよ」


「そうではないのだ、慶次!」


店のかんざしを手に利家が勢いよくふりむく。
茶を啜り、慶次はくびを捻った


「ふと思ったのだがまつのやつは、全く飾り気がないではないか?」


「着飾るってことかい?そりゃ、そうだけど‥」


「だろ?だろ?!まつは何も言わぬが、女子だから着飾ることはきっと嬉しいと聞いた!だから‥」


「ふーん?」


誰に聞いたのやら、つまりは、キレイに着飾らせてやりたいのか。
合点がいったと慶次は膝を叩いた


「そだな!まつ姉ちゃんはどちらかというと母親ってな気がしてたから、俺も気がつかなったよ」


茶屋の看板娘に団子の代金と心ばかりのポチ袋を渡し、慶次は立ち上がる。
うろうろとしている利家の隣に並ぶと屋台の造りのように簡素な店の台座に並ばれたかんざし達は色とりどりで、どれもまつに似合いそうだ


「まつ姉ちゃんなら全部似合うね、コレ」


一つを何気なく手に取り、ぽつりと言ったら過剰なまでに反応が返ってきた


「そ、そうだろ?!慶次、お前はよく分かっている!!偉い!」


「じゃあおっちゃん!!この台座のもん、ぜーんぶ頂戴!」



「……へ?ぇえっ!?」



一瞬慶次が言った意味が分からず、固まっていた利家が素っ頓狂な声をあげる。
店の主は慣れた様子で物を包みはじめていた。


「け、慶次?!!」


「ん?ああ、安心しなよ、利!俺も半分出すからさ」


「ち、ちがっ‥け、慶次!本気か?」


「え?そんなに金子の具合が悪いの?」


慌てて慶次の裾を掴んできた利家はうぐ、と喉を詰まらせる。首をゆるゆると左右にふるとぽつりと何か呟く


「利?」


「…ま、まつに怒られはしないか?こんなに買って………それがしの、」


言い切らない内にふわっとした匂いと共に暖かい手のひらが触れる。
そうして大きな掌が頭に乗せられたかと思うと、ゆっくりと後ろに撫でられた


「…利、可愛い」


「っ!」


反射的に手を払い、慌てる。
その手は、利家の手よりも大きかった



「〜っ、け、慶次…」


「まつ姉ちゃんにあげるんだろ?だったらこれぐらいやんなくっちゃ。あ、でも元手は小遣いからじゃねぇとな」



「…」


自分は器が小さいのだろうか。
気にしていない相手にそんな事まで考えてしまい、利家は頭を掻く


「‥慶次のやつ、将来どんな奴になるんだ?」


今でさえ手を焼くけど、と、ふぅ、と息をつくとふと視界に映った慶次の手の中に、かんざしが握られてある事に気付いた


「慶次、それは?」


「あ、ばれちゃった?‥利、これさぁ貰ってもいい?」


舌を出して照れたように左手のかんざしを揺らす。女物で華奢なそれは、自分の使用目的ではなさそうだ


「‥あげるの、か?」


「んー?ちょっとね」


「何だ、言ったらどうだ。おなごに渡すのか?」


「ひ〜みつー!」


「…慶次!」


茶化したようにふざけて話さない相手に、利家がむくれる。


「…、あ‥」


ふと、自分の手にもあるかんざしに気付く。
それを背の高い甥っ子の頭、揺れる長い髪に利家は手にしたかんざしをそっとさした



「え?」


「おお、よく似合う。」


「は?ちょ、利?何したのさ」


「さぁなー?いやしかし、よく似合う‥」


仕返しにと知らんぷりをする利家の胸に、寂しいと同時にどこかチクリと痛いものを感じる。


(慶次にも好きな奴がおるのだな‥)


「‥」



じくじくと痛むもの。それが何なのかは、まだ、わからなかった








初めはかゆいくらいが(何ソレ)慶次のもつかんざしは彼女の墓前に捧げるつもりです。利→慶のちに慶利になりそうや‥





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