□DROP OUT
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古くさくて陰気な屋敷。
それがこの家で人生の十五年間を過ごしてきた少年、真田佐助の感想だ


「ただーいまー」


誰もいない玄関から入り、夜のこの時間よりも暗い廊下を渡る。
黒いタンクトップの上に同じく迷彩柄の入ったタンクトップを重ね着し、ジーンズとシルバーアクセサリーを飾った格好。オレンジ色の髪の毛はカチューシャで後ろに流しており、華奢だが筋肉質な体だ


端正な顔は今は疲労により幾分やつれている。さすがに、何十日も連続してのバイトは堪えていた


(飯、作ってなんかないよなー。また俺が作るのかよ‥あ、でもまだ幸って小6だもんな。)


四百年経過するこの屋敷には広大な塀の中に本屋敷と離れに何時かの使われていない旧執事邸、蔵、茶室までが設けられている。
しかし今現在ここには佐助を含んでたった四人の人間しかいないのだ


(名家って言っといても、ぶっちゃけていえば元・名家ってやつ‥困るんだよねぇ、そういう肩書き。この屋敷の維持費だけでも馬鹿になんねーのに、税金で更にない金が失くなっちまう)



「俺と同じで、小学生が自分の飯作るのは寂しいよなぁ…オムライスで許してくれるかな‥」


真田邸は広い。
それでも佐助は迷う事なく進み、手にした包みを片手にある一室の障子をあける

二十畳はあるだろう広い空間に案の定いた相手に向かい、佐助はニッコリと笑いかけた


「幸村ー、ただいま!」


「おお!」


「うわっ」


身体ごとぶつかるように飛び付きしがみついた相手に慌てて背中を抱き締めてバランスを保つ
大型犬か、アンタはと毒づく佐助に構わず幸村は首に腕を絡めた


「……。」


朝からのバイトにより疲れはピークに達していたが、その顔を見ているとつい慌ててしまう

背中にある手から伝わる温かみに、惨んだ心が包まれるような優しい感覚も溢れるのだが、それと同時に体が熱くなってゆくのだ


(やばい。)


熱に浮かされる感覚に佐助は不自然にならない程度に幸村を離す。
離れたことに安心してため息をついてしまい、自分の情けなさに苦笑した


「お帰り、佐助!」


「‥ただいま。」



恥ずかしげに答えてその場に座ると、幸村もその隣に座る。
佐助は訝しげに眉をひそめた


「ところでさ、幸、何で梅の間にいるの?ここコタツどころか暖房器具もないのに」


「今、ここに来たのだ」


「手ぇー冷たいよ」


「そうか?でも、今来たのだが」



「ふーん」


横目でみる幸村の顔に変化は見られない。それでも、三年先に生きてきた分、そして幸村を十二年育ててきた佐助にとってはバレバレの嘘だ
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