ブック3

□!
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どうしたらいいんだ?


顔は平静を装いつつ内心汗だくである奥州筆頭、伊達政宗。
ただ今非常にピンチである

屋敷内の別邸である茶室の上座にあぐらを掻いて座り、腕を肘掛けに支えて行儀も何も無視、とどめに煙草を吸っているが、味が全く舌の上に広がらない。おかしいぜ、南蛮仕込みの煙草じゃねぇのかと毒づくと甲高い音と共に茶わんが割れた


「‥」

「‥政宗様、粗茶を…と思いましたが、失礼。椀が割れてしまいましたな」



ありえねぇ  だ ろ。

そう、心の中で叫びつつも政宗は必死になって頭のギアをフル稼働させる。


「‥まぁ、そんな日もあるさ。」


「‥」


無視かよ!??


(Ouch…小十朗のやつ、相っっ当キテるな)


腕っぷしでも弁論でも、誰かに負ける事など早々ないと自負する政宗だが、この守り役相手にだけは全面降伏の白旗を上げたい


「‥後悔先に立たず、ってやつかぁ…」


後戻りも後悔も自分にとって一番嫌いな部類。
言い訳だけは、したくない。したくはないのだが‥


ちらりと視線を外せば、掛軸の変わりに飾られた金の十字架。最近、この国へ入ってきた異国のものだ



(‥最近知った神様ってやつは、そんな思いも懺悔として救ってくれるらしい。)



救ってくれるなんて、なんてありがたい。
なに、自分が?俺が今まさに懺悔する時と?



そんなもの、ゴミに丸めて捨ててしまえ!










大方の勝敗が決まった戦場に、小十郎がふぅと息を零して刀を収める。
刄の脂を拭き取っていなかったが構わず鞘にしまうと、隣にある空座の床几にこめかみを指で触った

頭痛がする。こんな戦、楽勝だといっていたのにあの人は一体何処へいったのか


(‥いや、行き先はわかっている。わかりきっているから、困るんだ)


「―お前等、本陣は任せた。狼煙があがったら俺に構わず撤収しろ」

へいっと言う頼もしい声に見送られ、小十郎が栗毛の馬にまたがる。腹を蹴りいななかせると、一直線に駆け出した




奥州統一を目的とした戦を起こし、3年。戦いは未だ決着がつかない。だが戦乱は政宗が生まれる前からずっと続いていた


(あの方は一体、何を考えていらっしゃる‥)


小十郎が生まれた時、奥州周辺には有力な統一者がおらず、家同士の同盟により侵攻もなく戦況は常に平行だった。
日々の環境が変わることのない壗小十郎は元服し、戦も慣れ始めたある日父に呼ばれて屋敷へと戻れば、そこに一人の子供がいた







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