ブック3

□ただかつ、待て!
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時は永禄8年の初夏。


同暦3年、田楽狭間にて今川義元を討ち取って以来旭日昇天の勢いである尾張の織田信長は、催しのために新しく作られたこの屋敷の上座に座していた。


今度の美濃との戦いのは、当初は予想以上に苦戦をした墨俣攻略をようやく乗り越し、今回の伊勢長島の戦いで美濃国を領土にしその力を益々強めるに至った


今回はその戦で特に功績のあった者達を集めた宴の祝宴を催したのだ

この宴に連なる武将達の中には、織田家古参の将の他前田利家、豊臣秀吉といった新しい将達も並んでいる。その織田家に髄随する家臣達の中でも特に有望な者達の宴席、信長の席の隣に家康と改名する元康が信長の小姓の酌を手に上座に座していた。


「皆々ご苦労。三河殿もごゆるりと。」


「ありがたく頂戴いたしまする」


短い信長の挨拶と共に酒が振る舞われる。家康がいる上座は、無論いろんな意味を含んでいるだろうがその扱いは信長と同等という事である


その事に家康の家臣達は誇りを持って主君を見ていた。


(何だかなぁ‥居心地がわりぃや)


胸を張る家臣達に苦笑いしつつ、杯に満たされた酒を啜り家康自身は眉根をよせる。

家康にとっては信長に“試されている”今、細心の注意を払ってこの宴に接していた


織田家筆頭達の宴に招待され、首を傾げつつ行ってみれば多くの武将達を前に用意されていた己の上座の席。
それは白刃を突き付けられるよりある意味恐ろしいことだった
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