□happy dive!
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「好きな人が出来た」


フルーツミックスジュース味の紙パック片手に、佐助はその言葉に固まる。
とりあえずそう告白をした相手の為に作ったうどんをコタツに置いてから顔を上げると、童顔の少年を見上げた


「‥旦那。マジ?」

「旦那と此処では呼ぶな!家は関係ないだろう‥それに、その、マジ、だ。」


「ああ、ごめん。それで幸村、誰?」


「へっ?」


「何ぽけっとしてんの。言ったからには、ちゃーんと好きな相手の名前は答えるんだよ?」


リビングにある賑やかなブラウン管のおかげで、沈黙は降りないが気まずい空気が漂う。
円い円卓一つを間にフローリングに座る二人は、地元では有名な名家の息子とその幼なじみだ。幸村は次男なのだが長男は一人で立ち上げた会社が成功した為に伝統ある家を継ぐ暇はない。


そのため不自由なく自由もなく育てられ、高校に入ってようやく一人暮らしを許された有様だ。
そうして長い冬の果てに、今年の春幸村は前々から約束をしていた佐助と念願の二人暮らしを始めたのだ。


(‥の、はずだよねぇ〜‥。もしかして心は別、とか言ったらマジ今更なんだけど…)


頬杖をつき思わず不貞腐れる。
らしくないと考えてても嫉妬にも似た感情に駆られ、佐助は思いきり紙パックの中身を啜った


年末に近づいたこの日は特に寒く、都心には何年振りかの雪が降っている。寒がる幸村に暖かいうどんを作ってくれた佐助に、感謝はしたが幸村は一大決心をして告げたのだ


(…な、なんなのだこの沈黙は??元親殿、何か結果が違うでござるっ‥)


暖かいが冷えきった室内の空気に幸村は冷や汗を浮かべる。
紙パックの中身を盛大に、ずぞぞーっと吸う音に無意味に肩が揺れた。
佐助と目が合う



「‥ヴ。」


「……なーに?」


「いや、その‥」

しどろもどろになる我が舌。それに合わせて踊る眼に佐助の笑顔が映る


黒のカチューシャをした色鮮やかな髪は相変わらず綺麗で、その下の容姿も綺麗だ。



「幸村?言いなよ」


「っ、佐助‥そ、その」


「言え」


(お、怒っている!!?)



幼なじみでもその絶対零度の笑顔に宛てられるとついガタブルになる。

キレる佐助は本当に怖い。何というか、平たく言えば別人になるのだ


「ねー旦那。聞いてんのかよ?聞いてないならないでさ、こっちも尋問するって手あるよ?」


「は?」


一人もんもんと考えている間に、幼なじみはいつのまにか隣にいて、幸村の大事な場所に手を置いている。



「はひぃいいっ!!さ、佐助っ!?待て、待つのだ!」


「は?今更、そんな清い関係じゃなし、おまけに旦那には俺様優しく抱いてるんだからさぁ、そんなに怯えないでよ」


「ぎゅうわぃええっ!!」


せっかくのうどんが冷めてしまう。否、うどんどころか自分が佐助に食われる。否、そうではなく。
佐助は誤解をしていると気付き幸村は自身の上にのしかかる相手にあわてて言った。


「佐助、違うのだ!誤解なのだ、某は元親殿に聞いたことを実行したかっただけでござる!」


「え?」


弁明をする幸村に思わず手を止める。
目を細め眉を寄せると佐助は頭をかいた



「どういう意味?」


「‥元親殿は、毛利殿に、某と同じことを言われたそうだ。元親殿に、自分の存在を大事にしてほしいと‥」


つまりは、ノロケられたのか。気付いていない様子の幸村に呆れつつも、佐助は納得するように聞いた


「それで、俺様にも同じことを?」


「‥う、うむ」


「何でそんな面倒くさい事したの?幸村」


「すっ、すまぬ!」


いきなり佐助の方を向いて土下座をする。頭を深く下げた姿に驚いて佐助は手を振る


「っちょ、謝られても困るよ!」



「騙すようなことを言ったのだ、許して欲しい!」



「じゃあ嘘つかなきゃ言いだろー?最初からそう言ってたら、怒らなかったのに」


佐助の言葉に幸村は声を失くす
そうして、じわじわと顔から爪先までも真っ赤になっていった





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