文
□一鬼夜行
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(・・霧がはれてきたな。)
風がない珍しい日の夜。
木の枝の上に潜み、佐助はぼんやりと月を見上げる。真下にある小田原城が白い裸体をさらし、篝火が炊かれている場所をようやく見つけ出せるような、そんな明かりだ。
右手を額―半首にコツリとあて、薄く笑みを浮かべる
(あっれぇ〜??あんなところに、篝火なんて焚いちゃって。あきらかに警戒してますっていってるようなもんだよね)
いつもなら、しないこと。それはつまり、何か恐れるようなことをしている可能性があるということだ
(小田原城の主がアレだから、もう確実っぽいね。でもまぁ、念には念を?ってやつ。一番闇が濃い時刻になってから、発つか)
小田原城のことなら、佐助はなんでも知っている。そういうとまるで抽象的だが、甲斐付近に位置する土地はすべて自分が調べ尽くしている。忍びへの警戒が薄い小田原ならそれこそ、この城の事は例えるなら五臓六腑の位置から血液の流れまで手に取るようにわかるのだ。
今は丁度、見張りの交代時間。動くなら絶好の機会だった
(・・・・・・・。)
『まだだ。』
なぜか勘が告げる否定に、佐助はしばし逡巡する。
行くか、待つか。
「・・・、・・・・。旦那なら、どうするのかな?って、そりゃ決まっているか」
ちくりと痛む胸。それに気づかないフリをした
「・・・・?」