ゆめとまぼろしの物語
□吸血鬼と少女
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「あのままあなたのそばにいて、あなたの腕にとらわれて、あなた以外の世界を知らず、あなただけを思う人形になって、生きていたかったのに……!!」
気が付いたら、彼女の顔がすぐ目の前にあった。しゃがんで目線を合わせてくる彼女の瞳を覗き込む。
その目からは、次から次へと涙があふれていた。
ああ、久しぶりに君の顔を見たよ。とてもきれいだ。美人に育ったんだね。彼は、心の中でそうつぶやいた。
「君は、僕のそばに、いたかったのかい?」
「そうよ」
間髪いれずに彼女は答える。
「でも、あなたは私を置いていってしまった。だから、私はあなたを追いかけることにした。他の誰かに殺されてしまうくらいなら、私があなたを殺すんだって、そう思って、今まで過ごしてきたわ……」
彼女はそっと、彼の首筋にふれた。そのまま指で、そっとなぞる。と、五本の指で、蒼白なそれをわしづかみにした。
数瞬の沈黙があって、先に口を開いたのは、彼だった。
「どうして、力を入れないんだい?」
答えはなかった。彼はそのまま続ける。
「君が僕を殺してくれれば、僕は解放される。人間に仇をなす吸血鬼が、ひとり減る。君は英雄になるだろう。さいわい、僕は銀の銃弾で弱っているんだ……君の顔も、ほとんど見えていないくらいにね」
はっと、彼女が声にならない声をあげるのがわかった。