連作短編シリーズ―空に広がる希(のぞみ)―

□その3 冬休みのある日に
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「ねえ広希(ひろき)ー、見て見て! あの子犬、すっごくかわいーよー」


「……おい、深空(みそら)、あんまり大声ではしゃぐなよ」


俺は、つい先日郊外にオープンしたばかりの大型ショッピングセンターに来ていた。

本当なら、一人で靴を買いに来るはずだったんだが、なぜか幼なじみかつ近所に住んでいる深空まで俺についてきやがった。

暇だからって、だだこねてまでついていくと言い張るなんて、お前は小さい子供か。それでも十七歳か。


「えー、広希のけち」


「なんだよケチって。あのなあ、あんまり騒ぐと周りに迷惑がかかるだろ?」


「……はーい」


深空は、俺が靴を買うまではおとなしくしていたのに、俺の用が済んだとたん、急にスイッチが入ったらしく、嫌がる俺を連れまわしてあちこち徘徊しているというわけだ。

今は、ペットショップの前で、愛らしく動き回る子猫や子犬にメロメロになっている。

あー、正直言って、寒いから早く帰りたい。


「広希ー、次はどのお店を見に行く? お菓子屋さん? 雑貨屋さん?」


「自分の家がいい」


「えー、そんなこと言わないで、もうちょっと一緒にいようよー?」


「俺は靴を買いに来ただけだし、もう帰りたいんだよ」


そう言って俺は、踵を返す。だいたい、深空のおもりをする義務なんて、俺にはないんだ。


「ま、待って!」


深空は俺のコートをぎゅっとつかむ。俺は首だけ回して、幼なじみを振り返った。


「何だ……よ」


俺は目を見張った。深空が頬を紅潮させ、上目遣いで俺を見上げている。

俺は見てはいけないものを見た気がしたのに、深空の目から顔をそらすことができなかった。


「もうちょっと、広希と一緒にいたいの……お願い」


唇から紡がれる声は、消え入りそうなほど小さい。

深空が今、どれほどの勇気を振り絞ってこの言葉を言っているのかを考え、なぜか胸が痛くなる。
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