連作短編シリーズ―空に広がる希(のぞみ)―
□その2 ある日の昼休み
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「ねえー広希(ひろき)、お菓子作ったんだ。食べてみてよ!」
いつもの平日の昼休み、俺が自分の席に突っ伏して浅い眠りをむさぼっていると、教室の喧噪のなかに深空(みそら)の声が響いた。
いきなり耳元に話しかけてきやがったのだ。
実は俺は、昨日の夜、やりたくもない課題と格闘していたせいで、寝不足なのだった。
そんな不快な個人的事情のせいもあって、思わず深空をにらんでしまう。
「………なんだって?」
ついでに声も低くなってしまった。これも個人的事情のせいだ。
怖く見えるのは不可抗力のゆえだ。
「あれー? もしかして広希、昨日ちゃんと寝てないんじゃないの?」
深空は俺の不可抗力の半眼にもひとつもおびえず、それどころか俺の不機嫌な理由をずばり言い当てた。
これが、クラスの奴らと深空の大きくちがうところだな、と思う。
深空の顔には正解を確信している笑みが浮かんでいる。
得意げな、いたずらっ子のような、満面の笑みだ。
これくらいでそんなにうれしそうにするなんて、まだまだガキだな。
俺は眠気覚ましをかねて伸びをする。