連作短編シリーズ―空に広がる希(のぞみ)―
□幕間T 彼が思うこと
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この頃、僕の親しい人たちが、何だか妙なのだ。
そのことに気がついたのは、進級して二週間ほど経った頃だと思う。高校三年になった僕は、文系の進学クラスに組み込まれた。案の条、吉乃ちゃんと同じクラスではなかった。
そこは残念だけれど、同じ校内にはいるのだから、彼女を見守ることはできる。
吉乃ちゃんは今年も、深空さんと同じクラスらしい。
深空さんのことは、少しばかり知っている。吉乃ちゃんの親友で、よく笑う子だ。
吉乃ちゃんは、深空さんと話しているととても楽しそうなので、遠くでそれを見ている僕は、非常にうらやましくてならない。
いつだったか、冗談でこんなふうに話しかけたことがあった。
『いいなあ。深空さんは、吉乃ちゃんをひとりじめですねー』
必死で隠そうとしてきた欲望が、ひょんなことで表へ出てしまった瞬間だった。
だが彼女は、僕の焦りや嫉妬を知ってか知らずか、目をぱちくりとしばたたかせた。
『そんなことないよ? 紀里(のりさと)君だって、めげずに吉乃ちゃんに話しかけてるじゃん。傍から見てると、すごく楽しそうだよ』
『そうですか? 吉乃ちゃんは怒りっぱなしですけれど』
『そうかもしれないけど、そうとは限らないと思うよ? それに吉乃ちゃんは、紀里君が吉乃ちゃんを見守っていること、わかってると思うし』
僕は思わず言葉に詰まった。見守っている、だって?
僕が吉乃ちゃんを見つめている様は、深空さんの目にはそんな風に映ったのだろうか。だとしたら、それは大きな間違いだ。
深空さんがそんな風に僕のことをとらえているということは、彼女はかなり純真な子であることの立証かもしれない。
深空さんは、面白いくらいにすれたところがない。
のんびりしていて、世間慣れしてないところが多々見られるけれど、抜けているわけではなかった。
ただ、時折手を差し伸べてあげないといけないような、危なっかしさはあるけれど。
そんなところが、広希(ひろき)君が彼女を放っておけなくなる理由なのかもしれない。