連作短編シリーズ―空に広がる希(のぞみ)―

□その6 恋人たちの日に
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「広希(ひろき)ー、広希ー! 探したんだよー! 渡したいものがあるんだー」


冬の寒さもそろそろ後退してきた、とある日の放課後、俺の幼なじみかつ近所に住んでいる深空(みそら)の大声が、背後から思いっきり響いてきた。

俺は注意したい衝動をなんとか抑えつけながら、笑顔で駆け寄ってくる深空を振り返った。

ちなみに俺と深空は廊下のど真ん中にいるわけで、周りには生徒が何人かいて、全員が俺たちを凝視していた。

まあ、深空の大声が目立っていただろうから、この反応は普通だな。俺としてはかなりのいい迷惑だが。


「何だよ……」


俺は声音だけで、うっとおしがっている意志を示したつもりだったが、深空には伝わっていない。こいつには直截的な言い回しをしないと大概のことは通じないんだよな。

深空は見ているこっちが憎たらしくなるほどのいい笑顔で、持っていた紙袋をがさごそと漁った。


「あのね、広希にいいもの持ってきたんだ。今日はバレンタインデーだから、特別にチョコをプレゼントしてあげる!」


それはいい。それはわかった。だからそんなに大声で言うなって。チョコを貰えていない男子数名が俺を殺気だった目で睨み始めたぞ。だからやめろ。


「ああ、深空、わかったから、ちょっと場所移動を……」


「ん……あれ?」


深空の表情がいきなり曇り、紙袋を漁る手が少し乱暴になった。

しまいには中身を全部とりだして、逆さにしてふっているが、どうやらお目当てのものは入ってないらしかった。


「あれ、あれ……な、なんで?」


そのことに気付いた深空の目に、なんでだかわからないが涙があふれ始めた。

おい、何でこんなところで泣くんだよ。まるでお前が俺を泣かせているみたいだろ。


「深空……いい年こいて廊下で泣くな」


「な、なんで? せ、せっかく作ったのにい〜……」
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