儚き月夜の夢をみて

□二章
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月明かりのもと、向かい合うふたつの影。

雪が積もる極寒の季節であるにもかかわらず、泉まで腰につかり沐浴をしていたのは、赤い髪をもつ〈アンプロセア〉一族の少年、スペルステス・アンプロセアのはずだ。

〈ファンティーア〉一族であるクルーヤと同じく、〈碧き瞳〉と呼ばれた種族の血をひき、もうこの島では姿を消してしまった者たちの、生き残りであるはずの彼。

そう、スペルステスは、男のはずだった。

なのに、クルーヤの目の前にいる人物は、女の体をしている。

ふくらみのある胸。まるみを帯びた肩。

髪を腰まで伸ばしているのは何か意味があるからだと思ったが、それは自分の性に関係していたのだろうか。

しかし、ここで最初の疑問に戻る。


「え、なんで、お、女……?」


クルーヤは、ネイファと共にスペルステスを介抱したので、彼が男だということは何度も目撃しているのだ。

昏睡状態のスペルステスの包帯を替えるときだって、胸のふくらみなんてものはなかった。

もしスペルステスが女ならば、ネイファは自分に手伝いを要請するわけがないのだから。

しかし、どういうことだろう。なかったはずの胸が、あるなんて。

あいつは男じゃなかったのか。男だったはずだ。

じゃあなんで目の前にいるあいつが、女の体をしているのだろう。

クルーヤは突如突き付けられたありえない光景に茫然としていたものだから、突き刺すような視線に気付くことができなかった。


「……何をじろじろ見てるんだ」
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