儚き月夜の夢をみて

□序章
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舞い落ちる雪にうずもれて、スペルステスは、幼いころの夢を見ていた。






呼吸するようにきらきらと白光を反射するみなもが、足もとに広がっている。


そっと手のひらで水をすくっても、その冷たさにおどろいている間に、
指から滑り落ちてまた流れに戻ってしまう。


小さい頃は、そんなささいなことさえ面白かった。



静かに蛇行する川をそっとのぞいてみると、魚たちは優雅に泳いでおり、ときおりうろこがきらめいている。


まるでのんびり水中で日光浴を楽しんでいるように見えるのだが、手を伸ばすと魚たちは実に俊敏に逃げていってしまうのだった。


 

水のかおりに満たされ、風のそよぐ川のほとりで、スペルステスは毎日のように遊んだ。


ときおり、森の中に足を踏み入れたりもしたが、
緑色に染め上げられた木陰の間を通るよりも、
生物のようにゆらゆらたゆたう水面を注視していたかったのだ。


スペスルテスは好奇心と体力のおもむくくままにそこらじゅうを走り回るのも大好きだったし、
水をじっと観察するのも大好きだった。


 












あのころは、楽しい思い出ばかりとはいえないけれど。



それでも、思い出す度に懐かしさと郷愁で、強く胸がうずく。





――もう失われた、花の蜜のように甘い、幼き日々。


 
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